「ゼルダの伝説 〜ムジュラの仮面〜」 〜新しいゼルダを、とことん語ろう〜 宮本茂+青沼英二+小泉歓晃インタビュー その3 ただ退屈なだけで、ワクワクせえへんことは、 やりたくない。その結果がこのゼルダなんです。 |
NINTENDO64ソフト 「ゼルダの伝説 〜ムジュラの仮面〜」は 主人公リンクの表情が、どんどん変化していくように思える。 「時のオカリナ」の続編でありながら、 外伝でもあるというこのゲーム、 どれだけ思い切った作り込みをしているのか、 そのあたりをお聞きする制作者インタビュー、 3回目です。 |
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宮本: 今度のゼルダは前よりすごいです、 ていう言い方で企画をすすめても、 「すごい、って言われてもね」 という言い方もされる。 すごいというのがどういう意味なのか。 前より大きなプログラムなのか、 長いのか、絵がきれいなのか。 「すごい」とはもちろん言いたいんだけれど その言葉だけではテーマがはっきりしない。 じゃあ、今度のゼルダは前のに比べて こう違うんだということを、 はっきり言えるように作ろうと思ったんです。 青沼: それをコンセプトというんですよ(笑)。 宮本: そうやな。 それによって物の処理が変わっていくし 新しいキャラクターを作るのではなく コンセプトにあわせて、いままでのキャラクターを どう動かしていくかを考えることが 大事なんだ、という話を、 1年でつくるために、初期の段階でしたんです。 いつものゲームだと、終わってから 「そういうコンセプトだったんですか! 初めて聞いた」 なんてことになるんだけど(笑)、 今回は、6人のディレクターのなかで そのあたりの話がちゃんとできてた。 |
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小泉: ディスカッションしてましたよ。 ──ディスカッションというのはどのくらいの頻度で? 小泉: 回数は多くないんです。最初にみっちりやったけど。 全員で集まるというより、少人数でのディスカッションが 必要だったんです。 青沼: 僕が大きな会議があんまり好きじゃないんですよ。 一堂に会して、なんてやってても、らちがあかない。 そういうのは時間のむだ遣いでしかないんで。 誰かがね、問題意識を持った何かを言い始めたら そこで必要な人だけ集まって一気にやる。 そのとき僕がいなくてもいいんですよ。 ちゃんとディスカッションしてくれれば、 その結果を「こうしたいんですけど」って ぶつけてくれれば、それでいい。それがオーケーなら 「それで行こう!」となる、というだけの話で。 そういうふうに、分科会ごとにやってくみたいな形で どんどん進めていったんです。 |
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小泉: 連絡不足もあったけどね(笑)。 青沼: (笑)終わりのほうになると、もう、忙しいから、 自分たちだけで片づけちゃって、 「聞いてないよ〜!」ってこともあったりしますけど 事故は起きてないですよ、それでも。 宮本: 後半、仕上げのころになると、 僕が意見したりする中に、 エッチな話や世間話を混ぜたりすると、 みんな無言でいなくなっちゃうんです(笑)。 ものすごい緊張感がみなぎってて。 青沼・小泉: そうでした、そうでした! |
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宮本: なんだわかってたのかー(笑)。 でも、その緊張感っていうのが、 現場から出てくるようになった、というのは チームの仕事としては理想的だと思うんですよ。 ──自分の仕事のことに置き換えると、 自分の仕事ってぬるい、と思える話です……。 宮本: 「あんたにかまってる時間ないんや!」って 部下が思ってるわけですよ。 それって上司からしてみたら、ね。 ──頼もしい話? 青沼: だって本気でそう思ってましたもん(笑)。 宮本: ま、その話は取材が終わってからゆっくりね(笑)。 |
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──ふつう、ソフトの第二作を出すときというのは、 前の財産のことを考えますよね。 たとえばユーザーの意見として、 「このキャラクターがよかった」 「こういう世界観が好評だった」 というようなことがわかっているとしたら、 それを第二作にも持ってくる、というのが、 任天堂さんでも、他社の大作RPGなどでも行われています。 そういうやり方をすることで前のユーザーを離さずに、 そこにちょっと新しい事をすることで、 新しいユーザーを獲得する。そういうのが、 方法としてあるのではないかと思うんです。 それが、今回のゼルダでは、全く新しい事をしている。 なぜそれができるんだろう? と思うんですが。 小泉: 遊び(ゲームの内容)が決まって、 それをどう遊ばせようかという段階で、 前作の財産がジャマになってくることがあるわけです。 たとえばハイラル(前作の舞台となったハイラル平原) でつくるのか、っていうと、それは大きすぎる。 そういうのはよけておいたほうがいいんですね。 その世界を使って何かの遊びをつくる、というのではなく、 この遊びをするために世界をつくる、ということを 僕らは考えたい。 そうすると、ハイラルを使わずに 一から作り直したほうが早いんですね。 |
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青沼: デザイナーに指示するのでも 「前のあの地形でいいから」 なんて言うと 「そんなのより、一から作らせてもらったほうが ずっと早い!」 ってことになるんですね。 宮本: 前に良かったもの、を、さらに強化していくと、 前のユーザーをさらにトンガったほうに持っていく、 ということにしかならないんです。 広がらない。 今回のゼルダは、前作と全然違うようでいて、 下地はそのまま使っているわけです。 でも、下地をそのまま使ったからこそ、 別の面白さを見つけないと、退屈なんやね。 つくってることがね。 小泉: つくってるほうも、プレイするほうも。 宮本: 前の1.5倍の敵を作る、ということにしたって、 実はただ退屈なだけで、そんなにワクワクせえへん。 青沼: 前のを引き続きやっている、というマンネリ感が 新しいアイデアを盛り込むのを邪魔するし。 |
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小泉: 「またこれやるのか……」ってつくるほうが ウンザリしちゃうんですよ。 ──リンク(主人公)の表情なんですが、 後半に出てくるリンクは、いままでのような子供の、 かわいらしいリンクではないですよね。 どちらかと言うと真剣な、怖い、とさえ言えるような 顔をしています。 一番最初のお面を持っているリンクの顔は 前作のリンクっぽいんですけれど、 それ以降のリンクはどんどん変わっていく。 たとえば、ゼルダのすごいファンで、 前作の「時のオカリナ」に感動したという人、 「続編? あのリンクに、また出会えるんだ!」 という人にとっては、後半に出てくるリンクは 「リンクじゃない」 と言いそうなくらい変わってますよね。 こういうことも、最初から意図していたんですか? 小泉: いや、それはあまり意識してなかったですね。 たとえば「エポナ」という馬は出てきていますし、 妖精も出てくる、リンクもやっぱり緑の帽子だし。 キャラクターは前作から引き継ぐつもりで。 宮本: 盾がひとまわり大きくなったり、 剣が長くなったりもしていないよね。 小泉: してないですね。 |
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青沼: 言われると、たしかに、最後には変化してしまったものが でき上がったんだけれども、 スタートのときは、そこまで意気込んで変えるつもりは なくて、料理しなおす、という感じだった。 でも結局、全体としてまとまったら、 あれ? 全然違うものになったな、と。 小泉: なにかが乗り移ってしまった感じでしたね。 ──広報のかたにお聞きしたんですが、 前作に思い入れの強い編集者のかたが、 後半のリンクの顔は、雑誌には使いたくない! と言ったとか。 青沼: 雑誌に掲載するイラストは、また別に描き起こすんですが、 描く人も、僕らの進行にあわせて、 どんどん変化していくリンクを描いているわけですからね。 宮本: スタッフはけっこうみんな気にしてたよね。 お面がケタケタ笑うとか、 けっこう怪しい人が出てきて、とか、 「ゼルダをそんな風にしてしまっていいんですか?」 って、デザイナーのほうが気にしていたりして。 「いや、これは外伝なんだからどんどんやってくれ」 と言っていたんだけれども。 逆に、ゼルダはゼルダらしく、って言うときの 「ゼルダらしさってなんだ?」というのがある。 マリオもそうなんだけど、“不思議”というのが テーマにあるでしょう。どんどん不思議になっていって いままでなかったものになっていくというのは 任天堂のひとつのテーマでもあるわけですしね。 |
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小泉: 最初、マリオクラブのほうでもそういう意見が あったんですね。キャラクターへの入れ込みがすごい人は、 「このキャラはこういうふうには動かないはずだ!」 って。でも、このゲームの世界観を理解してくれるように なると、キャラクターについても意見は少なくなった。 ──ずいぶん前に、次のゼルダの売りは何ですか? という質問に対して、 「こんどのゼルダはキャラクターがイキイキしてます」 と宮本さんがお答えになっているんですね。 その“イキイキ”という部分がなんなのかは、 ゲームをやってみてはじめてわかるように なっているんですね。 小泉: ほんとに生きてますからね(笑)。 宮本: ハツラツ、とは違うんだよね。 こんなに暗いのに、どこがイキイキしてるの? って言われそうだけど、イキイキしてるんだねえ。 それは生きている、ってことなんだよね。 |
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次回も引き続きこの座談会の続きをお届けします。 おたのしみに! |
2000-06-01-THU