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05 (第24回の5)
宮本茂と糸井重里「ピクミンをめぐる対談」その5
何のために敵はいるのか。主人公は誰なのか。
 
 
darlingと、任天堂の宮本茂さんの対談の第5回目です。
ピクミンの創作現場にどんどん近づいていきますよ。
敵、はどんな存在なのか?
背景のヒミツは? そして、主人公はオリマーなの?
というようなことについて、聞いていきます。

 
 
糸井:
そういえば、ピクミンって「ノー言葉」ですね。

 
宮本:
日記とか、そういうの以外は?

 
糸井:
日記、いらないくらいだもの!
ぼくは、日記は、ちょっと、しらけたんです。
「狭くしないでくれ!」って思って。
おれが考えているのはそれじゃないのに、
「妻、いたのかよ、おれは!」って。
それは、「ちょうどいいところ」っていうのがないので
文字を書く以上、そうなるなっていうのは
わかるんですけれど。何も書かないわけにはいかないものね。
意外な評判っていうのは、ありますか?
こんなところに人は感じるんだなあ、っていうのは。
 
宮本:
そうやなあ、あまり、評判を聞いていないんです。
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広報部:
最初、テスト段階で、ピクミンがチャッピイに
食べられたとき、テストプレイしてくれた
女性社員が泣いたんですよ。ほろっと。
それはどうですか?

 
宮本:
それもねえ、……泣くかもしれんな、って思ってた。
意外な、ねえ……

 
糸井:
ほぼ日で「ゆーないとさん」という、
自由な女の子にゲームのレビューを書いてもらったんです。
すごく奔放なものを期待していたんだけれど
意外と、まとまっていた。
すでに宮本さん、織り込み済みだったんだろうな、
っていう感想が、ちゃんと出てきた。
彼女がオトナになっちゃったのかな、
とも思ったんだけど、これは、宮本さんが
そういうことをすべて
織り込み済みだったのがいけない(笑)。
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宮本:
そうかもしれない。
意外なところ、ねえ……けっこう、逆に、
いっぱい入れているので、自分自身もできあがってから
始めて気づいたこともあるんですが
そういうこともふくめて、全部わかっているんですよ。

 
糸井:
書き出したら一万とかになるだろうね。

 
宮本:
どこにひっかかってくるっていうのは
人それぞれなんですけれど、
予定外のことは起きていないですね。
マリオと、どう比べられるかなということは考えて、
「対極に置こう」というふうには思っていたんです。
糸井:
マリオのことは、やっぱりそういうふうに、
考えるんだ!

 
宮本:
考えるんです。
高校生くらいの女の子が
恥ずかしくないキャラクターにしたい、
というのは考えていて、この絵を選んだんです。
けっこう、妙な絵になるように
仕上げたはずなんですけどね。
変な顔はできないマリオ、というか、
任天堂フォーマットにはまったものがあるので
ピクミンも、そうじゃないように
つくったはずなんですけれど
「任天堂らしいね」と言われたり……
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糸井:
そりゃあ!

 
宮本:
「ちょっと可愛すぎて、ダサイ」と言われたり。
娘の周辺の、中学校の女の子とかに。
かなり、気持ち悪がってくれたらいいのに。
気持ち悪いのに、動いているのを見ると、
離れられなくなる、というのがいいのに。

 
糸井:
「可愛すぎて」って言うのか〜。

 
宮本:
日本にある「ヘタウマ」ではない、
グローバルな感じで、というふうには
なったと思うんですが。

 
糸井:
背景のすごいリアリズムというのは
すごく意識してますよね。
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宮本:
これはね、デザイナーが勝手にやってくれたんですが
最初、パソゲーのようなスタイルで進めているときは
ちょっとかっこいい、ファンタジーみたいな絵が
出てきていたんです。
途中で、ふと、リアリズムでやってみたいという
実験をしてくれて、
切り株を一個つくってくれたんです。
それがすごくよかったんですよ。

 
糸井:
マリオじゃないものね。
宮本さんちの、庭の写真なんだって?

 
宮本:
家の庭、というのは本当は違うんですが
家を含む周辺でまず取材をしてきてつくったんです。
素材をね、地面や切り株を上から写真に撮ってね。
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糸井:
切り株なんかある環境なの!
いまどき……(笑)。

 
宮本:
あるんですよ(笑)。
それで引き伸ばしてみたら、
ピクミンの絵と、相性がよかったんですね。
けっこう、クリエイティブは、持ち寄りで。
でも、そういうチームだけでつくっていると、
ぼくらが入っていかないとね、
「1」って書いた円盤を出すことは
許せない人たちなんですよ。

 
糸井:
あのへんがぼくには響くんですよね。
宮本:
そういう無茶が通るのは、
年寄り……ぼくですけど、がいて
「おれはコレで譲らない!」
というから、
じゃあ、せめて、もうちょっとキレイにしましょうよ、
と、半透明にしてくれたりして。

 
糸井:
あの「1」のあたりは、
ぼくのセンスと同じなんですよ。
「いいバット」「もっといいバット」
というような発想なんですよ。
「タコケシマシーン」に近いものがありますよね。
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宮本:
それでもいいじゃない、
わかってほしいことは、そういうことじゃないから、
ということなんだけどね。

糸井:
たとえば宮本さんが
ざっとこうだっていったもので
上がってきたものを、ジャッジすることが
多かったんだ? 絵に関しては。
シアワセだね、それ!

 
宮本:
勝手に書いてくれたのを見て、
これがいい、って。

 
糸井:
うらやましい……
 
宮本:
だからぼく、ほとんど絵を書いてないですよ。
ディレクターがデザイナーを集めて
いくつかの映画とかを見せて、
「こういうわけのわからない世界観のものを
 つくってくれ」と言っただけ、とか。
あとはぼくが頼んでるのは、
「いいか、“敵”を作っているんじゃないんだよ。
 “ピクミンを見せるために、大事なもの”を、
 作ってるんやから!」
戦う相手キャラクターの
仕様っていうのがいっぱい出てくるんですよ。
でも、そんなに作らないからって。
そのキャラクターは
ピクミンの何を見せてくれるのかっていう意味で、
つくるんだ、って。

 
糸井:
何種類くらいいるの?

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宮本:
10種類くらいが基本で、
バリエーションはいっぱいあるけど。

 
糸井:
宮本さんが現役で作り続けている人だな、
って感じるのが、
敵が10種類っていうの、
逆行ですよね……

 
宮本:
普通のゲーム作りだと
70以上ですからね。
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糸井:
主人公っておそ松くんと一緒で、
無個性で、あんまりいじれないんだけど
友達とか敵でバランスをとる。
それでいちばんうまくいったのが
トイ・ストーリーの作者だと思うんですよ。
トイ・ストーリーって、
いいもんと悪いもんがいて、
悪いもん側のおもちゃたちって
ものすごくチャーミングじゃないですか。
ぼくは最近、よく話に出すんだけど、
天国と地獄の想像図を書いたとき
天国ってぜったい白っぽくてタイクツだと。
地獄はいろんなバリエーションがあって、
結局、人間って、何がいいんだって言われたとき
こたえられないようにできてるんだ。
どれだけ悪いもの、っていうか、影を描けるかで
光っていうのは、その残りの部分なんだよ、
って話をしていたんです。
でも今の話ってそれを越えていて、
光を強調するために、
影の描き方を、できるだけ少なくしてもいい。
事件を起こすっていうか、ぶつかりあったところに
光がキラキラするんじゃないか、
っていう理屈だから。
越えた、ね。
天国の話じゃないけど、
無個性といえば、無個性ですよね。この主人公。
 
宮本:
このゲーム、特殊で、自分が主人公なんですけれど
自分が操作しているのはピクミンである。
オリマーを操作して、いちばん愛着がわくのが
オリマーのはず、なのに、ピクミンに行くんです。
こういうゲーム、ないことはないですけれど、
比較的少ないタイプのゲームですよね。
主人公は、遊ぶ人にとってはオリマーじゃあかんわけで
ピクミンでなきゃいけない。
けど、ピクミンっていうのは、
色んな演技をして反応が少々悪くても
怒れない。
だから、キャラクターとして
プレイヤーを見せやすい構造なんですよね。
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糸井:
しょっちゅう自分がいることを忘れるもんね。
逃げろ! ってときに、
あいつら(ピクミン)と自分を、
重ねてるもんね。

 
宮本:
Cスティックでピクミンの隊列の形を変えて
矢じりのようにスピーディに動いたり
ハートの形になったりとか
火の鳥が小さな鳥の群でできてるみたいなことを
志した時期もあるんですけど
どうもうそっぽくて。
そこで、もっと勝手に動く群になったんですけどね。
そういう意味では変わってるんです。

 

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次回に続きます!
2002-5-31
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