どうやら、シェフは家に秘伝の糠床があったようである。 実家での食卓には、お手製の糠漬けがのぼるので、 茂木家にも、ステキな糠床があるのでは? と期待しつつ、 母に電話をしてみたところ、 「うちに秘伝の糠床なんかないわよ。 ことしもそろそろ糠漬けを漬けるかな、 とおもったら、1から糠床をつくる。 飽きたら、処分する。」 ということだった。 熟成とかそういうことは別にどうでもいいのかもしれない。 実に、さっぱりとした母である。 そういえば、我が家は、梅干しだろうが梅酒だろうが、 でき上がったら寝かしておくなどということはせず、 とっとと食べ切るのが習慣である。 しょうがない。 ならば、私が、私の家の糠床の「祖」となろう。 徳川幕府でたとえるならば、家康となるべし。 200年後、この糠床のルーツをたどると、 古文書ならぬ、古データとなったこのページが発見され、 遠き子孫に、糠床の祖としての、 私の存在が伝わるのである。 いや、そんなことにはならなかろう。 妄想はこのくらいにしておいて、と。 母に糠床から容器から全部めんどうをみてもらおうか、 とおもっていたので、糠床もさることながら、 まずは、糠床の入れ物を入手せねば! 料理をガンガンするほうではない一人暮らしの家には、 糠床を保存しておくような容器は無いのが実情である。 味噌漬けをつけてたじゃないか(注1)! といわれる気もするが、 あれは、ちょっとした味噌に 多くない分量のキュウリを漬けておいただけであるからして、 そんな、キュウリやらなすびやらを詰め込んで、 さらに、糠がびっしり入るようなサイズのものは無い。 さて、どうするか。 やはり、 「すこしのことにも先達はあらまほしきことなり」 といわれるように、買うべき糠床の容器も、 先達に聞くがよし。 というわけで、(母でなく)鶴見師匠に聞いてみると、 本文中にもあるように、 野田琺瑯の「ぬか漬け美人」がいい、という。 1kgの糠用で、本体は琺瑯(ホーロー)、 樹脂製のフタがついている。 正直なところ、この「ホーロー」が どういうものなのか、知らなかった。 「琺瑯」という、「邯鄲」やら「蜻蛉」みたいな 妙に雅な字を書くということも。 調べてみると、琺瑯とは、鉄やアルミなんかの金属に、 ガラス質の釉薬を高温で焼き付けたものだそうである。 日本で実用として使われ始めたのは、明治の頃と。 いわゆる「文明開化」的な品物であったわけですな。 で、さらに、琺瑯には、“化学的耐性”があり、 酸や塩分におかされにくい、と。 なるほど、さすが先達! まるで、糠漬けのためにあるようだ! よし。買うべし! ※お店にいって在庫がないのもがっかりなので、Amazonで注文。 (Amazonでなければ、Googleに「ぬか漬け美人 通販」といれたら、 販売店がでてくると思います。) 届いた「ぬか漬け美人」は、 暖かみのある白い肌も美しく、 冷蔵庫いれてみれば、 生活感があふれ出すぎることもなし! 申し分の無い入れ物っぷりを発揮しはじめた。 さて、次はいよいよ、糠床である。