OGATA
イッセー尾形のまわりの、
ボツリボツリ話。

キャバクラ(98年春の新作)

キャバクラ、キャバクラか・・・。
このへんでできたの・・・。
キャバクラ行ってもなー・・・。
行こうか・・・。
うん?、もう少し待ってって、なに?
ああ、今なにこっちでビラ配って、店戻って、
俺を指名してくれって、言ってんの?
だめだな、おまえら、そういう考えじゃなあ、
自分の事ばっかり考えるなよ、
店のさー、
営業成績ってことがあるわけじゃない・・・?
自分の事ばっかり考えて、だめだ・・・、
んなものは・・・。
んにゃ、俺が行って、んんー、
楽しめんのか?俺が・・・。
慰めてあげるわよ?
バカ行言ってんじゃない!
女の子にきゃーきゃー言われてえ、
慰められるような仕事してねーんだよ、俺は。
大手だよ、大手。
三菱商事・・・?なんだそりゃ。
ば、バカ言ってんじゃないよ、おまえ。
三菱商事だけが大手か、おまえ。
ナニ考えてんだろうな・・・おまえらさー、
世の中ってのはどういう成り立ちか、
知ってるか、言ってみろ。
ああ?昔は、衣食住だよ。
怪獣の名前・・・?バカヤロウ!
バカ言ってんだよ、おまえらー。
衣は、着るもの。食はたべるもの、
住は、住むところだろ・・・。
昔はそれで良かったんだよ、なあ・・・。
今もうどれも満足してるから、
なあ、食だけだよ、食。
食わなくなってんだよ、
食わないだろう、おまえ、
ダイエットしてんだろう。
はい、じゃない!ばっ、かっ!
死ぬぞ、おまえ。贅沢な!
昔は生えてる草食ってたんだぞ!
うそじゃない!ほんとだ。
へぇーじゃない!食ってたんだよ、おまえの・・・、。
おまえ、幾つだ。
十九・・・・・・! ちぇっ、くぇー・・・。
コメ、食え、米を。
(食べてると言われて)
ときどき?なんのご馳走食べてる?
イタメシ・・・?ばーか!
(もっと断定的に)
ばか!
おまえ、四十なったら、
(両手を広げて)
こんな太るんだゾ。
イタリアの女、見てみろよ。ああん・・・。
ばかばっかりで、ええ?
今日疲れたでしょおう?
うーん、(うなだれて)疲れたよ。
そうじゃないだろう!おまえ・・・。
今の話の流れからいくと、
じゃあお仕事なんですか?だろう!
(女の子が、そう尋ねる)
うん、教えん。
衣じゃない、食じゃない、住じゃない。
おまえたちは何の商売?
うーん?
ビラくばり・・・?ばかぁー。
バカ!馬鹿言ってんじゃない、ホステスだろう!
コンパニオン・・・?
同じようなもんだ。
サービス業なんだ、おまえたちは。
へぇー、じゃないよ。
(どうしようもないやつらだというふうに頭を振って)
あすこに、見ろ、(指を差しながら)
屋台が見えるだろう。
あれは何だ?
食、違う。あれはサービス業だ。
あすこのラーメンは不味い。
しかし客は入る。
なあ、オヤジが面白いからだ。
サービス業なんだ。
どーだ、ちょっとは世の中が、
複雑だってことが、判ったか?
はい!じゃないだろう・・・。
名前なんつーんだ、おまえ。
さくら・・・、ばかな名前つけて・・・。
そっちの、無口な方は何だ。
おきゃん・・・。おきゃん?
なんだそれ?ばかな・・・。
おきゃん、嫌ですって、自分で言えないのか、おまえはー。
ばかなー・・・・・・。
どういうキャバクラなんだ、おまえんとこは・・・・・・。
こんなところにキャバクラを作って・・・。
知ってるか、
ここは昔はなーんにもないところだったんだよ、知っとるか。
葦の原だったんだよ、あし。
(女の子が足を出すので)
そのあしじゃない!稲科だよ、イネカ。
人間は考える葦である。
これ誰が言った、言ってみろ!
(女の子たち、黙っているので)
パスカルだよ、パスカルぅー。
フランスの哲学者だよ。
(大袈裟に身振りを混ぜながら)
宇宙は広大である。人間はちっぽけな存在である。
しかし、人間は考える葦である。
わかんないだろう・・・。
学校行ってないからじゃない、ばか。
そんなもん関係ない!
経験だ、経験。経験がない、と言ってるんだよ。
(後ろを振り向いて誰かを探しながら)
だから俺が言いたいのは、あれ、今日いないなー。
ここにほら、あのー、座
ってギター弾いてるやつ、いるだろう。
俺はあいつに一言あるんだ。
「いのーち、賭けてとー」、あれよく唄うんだよ、あいつ。
ぜんぜん違う!
あれは俺の青春の唄なんだ。
あんなふうに唄って欲しくないんだ。
命を懸けるんだぞ、おまえ。なあ。
(女の子にちゃかされて)
ばかっ!俺にだって青春はあった・・・、。ばかっ・・・、。
俺の青春はあれだぞ、長野県だぞ。
一番だったんだぞ、高等学校はじまって以来の・・・、
(なにが、と聞かれて)
そんなこと言うとおまえらばかにするから、言うもんか。
だからおまえたちも青春なんだぞ。
はい、じゃないだろう。
青春だぞ、おまえ。
そんなもんオヤジと話てたら面白いわけないじゃん・・・。
(面白いですと、喋るほうの女の子に言われて照れながら)
面白いー?(小声で)ばかいってんじゃないよ・・・。
そんなものは青春でもなんでもない!
(無口な方に向かって)おまえの方がまだ青春だ。
な、黙ってるからな。うん。
(ひとりで納得しながら無口な方を指差しながら)
おまえは、青春だ。
はい!じゃないだろう。返事するな!
青春てのは、無礼極まりないんだ。遠慮するな!
(二人をしばらく眺め)
なぜしない・・・?うんにゃーー。
ええ・・・。もう行くのか、?
時間なったのか、ううん、ううん、うん。

俺も行かなきゃいけないのか。
ううんん、俺はいまんで十分だけどな。
ううん、行かなきゃいけないのか・・・、眠いしさー。
おい、あのー、店には行かない。
今までの分はちゃんと金払うから。
て,店内にははいってないんだから、
店内料金は請求するな。
あのこの、今までの時間で請求しろ。
いくら?
ばかっ!
それは高いだろう!

●現在成長中の新ネタ「キャバクラ」 

 年頃の娘や息子は父親の説教や
苦労話を聞きたがるでしょうか?
 お父さんからすれば長年に渡る
苦労の積み重ねで勝ち取ったポストの話
をしたいのに、それが聴いてもらえない。
自分の生きてきた事を証明した
いお父さん。
 そんな中年男の話です。
 娘と年の近いホステスが「おとーさん」
と自分を呼ぶ。お父さんは娘と
年の近いその女の子に言う「おじさんは大手だぞ!」
 女の子の冗談に会社員は笑い。
おじさんのときめきに女の子たちは喜ぶ。
 子供を一人の人間として怒れるお父さん。
子供に理解が有り、自分の信
念をきちんと教える厳格なお父さん。
自分の若き日を話せるお父さん。
出会ったばかりのホステスの前で、
そんな古き「お父さん」に変身する。
仕事の疲れ、家庭の疲れ、
生きてる事の疲れが凄いスピードで癒されているのが解る。
神戸で演劇を教えてる演出の森田は
タダで役者の卵に説教できるので、
毎週喜んで新幹線に乗っています。 

1998-07-01-WED


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