OGATA
イッセー尾形のまわりの、
ボツリボツリ話。

「屋上にて」

屋上に意を決して職場の後輩を呼び出した男。
おそらく20代後半だろう。職場にも仕事にも慣れてきた。
もう新人ではないがまだ管理職ではない。
そんな中途半端な時期。
彼はかなりの気合いを持って「決戦の時」に臨んだ。

精一杯の威厳を持って、自分の失点は最小限に押さえ、
なおかつこいつとは今後円満な関係でいたい。
というか、出来るならば、こいつがもう俺に
頭が上がらない関係にしたい。
今後は、舎弟のように俺に敬意を払え。
俺の顔色をうかがえ。
俺のギャグに誰よりも笑え。
そんで俺の「職場内でのひょうきん者」
という位置づけを補佐しろ。
もし来年とか再来年とか、面白い新入社員が入ってきても、
そいつを屋上に呼び出してこういう微妙な通達事項を
きちんと伝える係になれ。
そいつに俺がその事で泣きつかれたら、
俺そんなこと全然知らなかったって驚いて、
お前が先輩思いのいいヤツゆえに
俺に内緒でそんな事したんだって事に着地させるから。
いや、まあ、そこまで育ってくれりゃもちろんいいけど、
そうじゃなくてもいいから、
とにかく先輩の俺を差し置いて出すぎたマネをするな、
というか俺よりうけるな。

こういうのは犬のケンカと同じだからな、
一回相手を圧倒できりゃあ、
今後ずうっとその関係になるんだから。
気合い入れて先輩の威厳を持ってがつんと行けよ、俺。

おいおいおい、何か予定通り行かないぞ。
そんな風に発展する話じゃないんだけどなあ。
だからこいつダメなんだよな、
だからこいつ嫌いなんだよなあ。
新人類ってヤツかあ?
俺らの新入社員の頃は、いくらなんでも
こんな風にたてつかなかったよな。
先輩からめちゃくちゃなこと言われて叱られても、
わけ分かんねえ事で呼び出されて文句たれられても、
こいつみたいな態度じゃなかったよなあ、
こりゃひでえだろ、
一体何考えてんだこいつ。
そう言いつつも、俺、こいつにビシッと話通してるじゃん。
なだめたりすかしたり、俺いろんな引き出し持ってるから
硬軟取り混ぜてるし、
こいつまんまと俺の話に耳をかたむけ始めてるじゃん。
引かば押せ、押さば引け。
だてに営業やってねえもん。
こいつみてえに学生気分ひきずったまんまじゃねえもん。
こいつ、俺がひょうきんだからって、
なんか誤解してんだよな。
仕事もできてひょうきんな俺、
っていうその辺をわかってねえのが
バカなとこなんだよなあ。
「オヤジのコネで会社入ってさー」って言ってんのも
ギャグってわかってるから笑ってんだろ、
そんなら部下らしい態度で俺に接しろよ。
それとも、ホントにコネで入った仕事のできねえヤツだって
思ったのかよ、それなら笑ったの変じゃん。
どっちだよ。

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自分の肩書きを必死に守る。
その肩書きを無くしたときに彼は、
声を殺した発狂にしか見えない泣き方をする。
自分が解らなくなり人格が割れる。
イッセー尾形の一人芝居のルーツは、
実は肩書きを無くした尾形一成が
人格割れの寸前に表現屋に至った事かもね、
とスタッフ。

今は肩書きなんかどうでも良い時代だからなあ。
これから先は面白いぞ。と演出家。

1998-09-05-SAT


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