小倉充子さんの数々の作品、いかがでしたか?
(スライドショーで、ご紹介しております)
小倉さんの、自由で、ダイナミックな作品も、
土台となるのは「江戸型染」と呼ばれる伝統の技術。
次回、小倉さんのくわしい紹介に入る前に、
まずは、江戸型染とは何か? について、
ちょっと知っておきたいと思います。
型染は、「かたぞめ」と読み、
きものの染色技法のひとつです。
簡単に言えば、
切り抜いた型紙を用いて、布を染めること。
その方法は、大きく2つに分けられます。
まずひとつ目は、
生地に置いた型紙の上から
色糊(染料がにじまないように、糊を混ぜたもの)を
ヘラでつけたり、刷毛で刷り込んだりする方法。
こうすると型紙の抜いた部分が色に染められます。
そしてふたつ目は、
型紙の上から防染糊をヘラでつけて乾燥させたあとで
生地全体に染料を引きます。
それを水洗いすると、糊が落ちて、その箇所だけ、
白く浮かび上がります。
つまり、このふたつの方法は、
写真のポジとネガのような関係です。
ざっと、全体の工程を示してみると、
こういう流れになっています。
図案を考える、スケッチを描く
↓
渋紙(和紙に柿渋を塗って、耐水にしてあります)
の上にうつし、型を彫る
↓
糊を置く
↓
引き染め(刷毛染め)
または捺染(ヘラで色糊をつけること)
↓
定着・水洗いして糊を落とす
↓
乾燥
↓
完成
ただ、どうやら、
ひと言で型染と言っても、
その種類はいろいろあるようです。
小倉さんの江戸型染には、
どんな特徴があるんでしょう?
「広義ですと、型染には、
結構、いろんなものが入ってきちゃいます。
たとえば小紋、更紗、中形、紅型、型友禅。
そのなかで江戸型染の代表といえば、
“江戸小紋”に代表される技法です。
江戸小紋はもともと大名家が使っていたもので、
高度な染色技法を要する染め物ですが、
やがて江戸の庶民に降りてきて、
いろいろな模様を細かく散らし、
オシャレを楽しんだというものです。
京都の型染が、色を多く使うのに対して、
江戸型染は、糊を使い、
1色でおさえるのが特徴ですね」
では、江戸は、色を多く使う技法は、ないんですか?
小倉さんの作品には、色を使ったものも、
ありましたが‥‥。
「いえ、江戸で、色と型をたくさん使う技法には、
更紗があります。
わたしは、その技法も取り入れて、
つくっているんですよ。
とはいっても、江戸更紗が使う色は、
種類は多くても、色使いがとにかく渋い。
抑えた、とても抑えた色を使うんですね。
更紗にせよ、型染にせよ、江戸の染め物の特徴には、
抑えた色使いということがあるんです」
なるほど、西方の型染とは、ちょっと違うわけですね。
江戸の人は、その限られた世界の中に
「粋さ」や「江戸らしさ」を
表現しようと思っていたのでしょう。
ちなみに、江戸と名前がついていますが、
この防染糊を用いた型染は、
室町時代末期、16世紀あたりからあったようです。
それが技術として発展したのは、安土・桃山時代、
それがさらに発展したのが江戸時代。
そして、そこで確立された技術が、
現代に伝わる江戸型染の形にいたったと
考えれば良さそうです。
しかし、小倉さんは生粋の職人ではありません。
あくまでも、江戸型染の作家。
だからと言うわけでもないのでしょうが、
彼女の技術は、少々、
職人さんがつくる型染めとは違う点があります。
「職人さんというのは、
江戸小紋なら江戸小紋だけ、
江戸更紗なら江戸更紗だけという風に、
使える技術が限られているのが普通なんです。
だからこそ、ひとつひとつの技術を
極限にまで高められる。
私の師匠は江戸更紗の職人の家の出でしたから、
本当は“刷り”しかやらないはずなんです。
ところが彼は、
いろいろやりたい職人さんで、
いろいろできた職人さんだったから、
私に一通りの技術を教えてくれたんです。
それで、私の作品の場合は、
一通り教わった技術を組み合わせながらつくっていく。
中形の型を使って引き染めして、
部分的に江戸小紋の技術で柄をつけたり、
型友禅や更紗の技術で
色糊や刷りで多色づけしたりします。
木綿に、絹を染める技術を、
これだけごちゃまぜにして使ったり、
絵羽づけ(柄合わせのあるデザインのこと)
したりしている人は、
あまりいないと思います」
なるほど、
職人ではなく作家の目線で江戸型染に取り組む。
さまざまな技法を
彼女の自由な発想にそって組み合わせることで、
ほかにはない作品になるのですね。
さて、次回は、小倉充子さんの素顔に迫ります。
どうぞお楽しみに!
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