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糸井 |
千円札のコピー芸術が「通貨模造」という罪に
問われたわけですけど、
そもそも、きっかけって、何だったんですか?
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赤瀬川 |
ようするに、やっぱり「子ども」なんだけど‥‥
ずっと貧乏でやってきたから、
「お金なんか、なければいいのに」って気持ちが
いつもどこかに、あったんです。
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糸井 |
ええ、ええ。
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赤瀬川 |
土地に値段があることも、おかしいなと思ってたし‥‥
お金って「理不尽だな」って思いが、まずあって、
お金って「にくらしいもの」だと感じてたんです。
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糸井 |
なるほど。
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赤瀬川 |
野菜なんかに値段があるのは、わかりますよ。
誰かがつくってるわけですから。
でも、「土地」というね、
もともと「誰のものでもなかったもの」に、
値段をつけるなんて、ずるいと思って。
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糸井 |
「オレが最初に線を引いたんだ!」みたいな。
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赤瀬川 |
そういう、お金に対する疑問が、まずあった。
そこに、当時の「左翼思想」が重なって。
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糸井 |
そういう時代ですよね。
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赤瀬川 |
ただ、ふつうは「大学を出た、頭のいい人」が
左翼になるはずなんだけど、
ぼくなんかは「素朴な左翼」というかね、
「貧乏だから左翼」というような、非常に‥‥。
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糸井 |
絵に描いたような。
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赤瀬川 |
そう、絵に描いたようなね、貧乏左翼。
あんまり得意じゃなかったんだけど、
本を読んだりすると
「共産主義というのは、お金のない世界だ」
みたいなことが書いてあるわけ。
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糸井 |
ええ、ええ。
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赤瀬川 |
すると「それは素晴らしい!」なんて
感化されてみたりね。
そんなのが、お金にまつわる最初のあたり。
きっかけといえるかどうか、わからないけど。
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糸井 |
いや、もうそのへんから、
「千円札」には、つながってる気がしますね。
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赤瀬川 |
そうですねぇ、うん。
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糸井 |
芸術をはじめたのは‥‥。
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赤瀬川 |
芸術は、子どものころの絵からなんだけど。
で、こっちが大人の「芸術」をはじめてみると、
そういう「社会制度」だけじゃなくて
人間の問題とか、いろいろ考えはじめるんですよ。
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糸井 |
はい。
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赤瀬川 |
そのなかでも、ずうっと興味があったのが
「偽物」というもの。
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糸井 |
ほう、ほう、ニセモノ。
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赤瀬川 |
本物と偽物。本物があって、偽物がある。
これって、どういう存在なんだろうと。
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糸井 |
ええ。
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赤瀬川 |
はじめは「人間の偽物」をつくろうとしてたんです。
でも、それは難しくて、
ちょっと、どうしようもなかったんですね。
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糸井 |
人間の偽物。
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赤瀬川 |
うん、そこで「お札なら、やりやすいな」って。
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糸井 |
急ですねぇ(笑)。
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赤瀬川 |
でも、お札って人工的なものだからね。
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糸井 |
ええ、そうですけど。
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赤瀬川 |
人間の偽物をつくるのは、難しいんですよ。
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糸井 |
ええ、はい。それは、どういう‥‥。
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赤瀬川 |
生物というのは、海水を身体のあちこちに溜めながら
海から丘へ上がってきたって話があるけど、
だったら、
海水をぎゅうーっと圧縮してヒト型に詰め込めば、
人間ができるんじゃないかってね。
まぁ、その考えはあまりにもアホらしいんで、
ポエムにして終わりにしました。
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糸井 |
いやぁ、ポエムとしては、いいポエムですよ。
でも、そうやって、人間の偽物をつくるのが難しいから、
「お札の偽物」をつくっちゃった、と。
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赤瀬川 |
やっぱり、いちばんわかりやすい「偽物」って
「お札」だったんですよね。
ところが、どうやら偽物はつくれないらしい。
だけど「偽札」をつくろうとしてるわけじゃないんだし、
印刷所だってあるんだから、
なんか似たものができるはずだ‥‥と
あちこち頼んだりとかしてたら、できちゃった。
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糸井 |
できちゃった!
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赤瀬川 |
そう。
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糸井 |
すごい‥‥。
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赤瀬川 |
できちゃったんですね。
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糸井 |
その千円札、はじめは「手描き」でしたよね。
サイズも、ずいぶん大きな。
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赤瀬川 |
そうですね、最初はきっちり「模写」してたんです。
手描きだし、大きくすれば問題ないわけですから。
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糸井 |
ええ。
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赤瀬川 |
でも、描いてるうちに、
一枚だけを拡大して「模写」するだけじゃ、
「お札」を描いたことにはならないなと
思いはじめたんです。
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糸井 |
それは‥‥。
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赤瀬川 |
やっぱり「お札」って「複数が命」というか‥‥。
細胞と同じで、
一枚だけあったってしょうがないわけでしょう。
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糸井 |
はーーーーー‥‥。
「お札は複数が命」って、すごいな‥‥。
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赤瀬川 |
複数であるところに、お札自体の生命が宿る、
というかね。
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糸井 |
まさに資本主義の話ですね、それは。
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赤瀬川 |
それで、やっぱり「印刷」しなきゃダメだって、
描きながら、思いはじめたんです。
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糸井 |
‥‥おもしろいです。
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赤瀬川 |
絵描きの性分で、はじめは手で描いてたんだけど、
途中から、
「お札の成り代わりをつくろうとしてるけど、
どうも、これはお札じゃないな」と。
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糸井 |
印刷のほうは、写真ですか?
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赤瀬川 |
そう。印刷所に、適当なお札を選んでもらって、
そのまま一色で刷ってもらったんです。
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糸井 |
はー‥‥。
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赤瀬川 |
で、やってみたら、あんのじょう。
「お札は複数あってのもの」でした、やっぱり。
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糸井 |
はー‥‥。
<つづきます!> |