ショーガール。 奥野史子・ラスベガスからの出発。 |
私と「O(オー)」の出会い 私と「O」との出会いは、遡ることちょうど2年前、 1999年の9月のことでした。 その頃私は、テレビ朝日「やじうまワイド」という 朝の番組のスポーツコーナーを担当する スポーツコメンテーターでした。 月〜金、朝3時30分に起床し 5時50分から8時までの番組で、 その後に講演会や水泳教室などで地方に飛びまくり、 毎日毎日が気の遠くなるような生活でした。 そんななか、番組から一週間の夏休みをもらい、 以前から噂では聞いていた ラスベガスのショー「O」を観に行ったのです。 「O」とはなんぞや?とお思いの方のために ちょっとご説明しましょうね。 「O」(オーと読む)とは フランス語のeau「水」を意味し、 水こそがこのショーの不可欠な要素なのです。 舞台には大きなプールがあり、 約570万リットルの水(っていわれてもどれくらい?) が使われています。 (とにかく大掛かりな舞台装置には違いない) で、そのプールを舞台に、 飛ぶや跳ねるや泳ぐややんややんや…のショーなのです。 これ、一番わかりやすく説明すると、 今、日本に来ている「サルティンバンコ」の水バージョンかな? で、そのショーを2年前に観に行き、 私の人生は変わってしまったのです。 ショーにはアメリカやカナダ・ロシア・フランスなど 多くの国からたくさんのアーティストが集まってきており、 その中には 以前私がシンクロ選手だった頃のライバル達がいました。 選手を離れた今はもう、昔のお互いを知る良き友で、 その中の一人、フランス人の男性シンクロナイズドスイマー (海外には男子シンクロがあるのですが、 それはまた今度、じっくりとお話ししますわね…) と話しをし、「O」の魅力を聞かせてくれました。 彼との1時間程度の話し合いで、 私の心の奥底に潜んでいたもう一人の自分が 目を覚ましてしまったのです。 「O」は、これまで私達がいた競技の「競う」世界とは 全く異なったもので、 プロとしての「魅せる」ということを大前提に、 いかに観客に、感動し満足してもらえるか、 ということを追求しています。 技のすごさもさることながら、 その演出力や舞台装置は、やはりプロフェッショナルで、 まあ、度肝を抜かされます。 ゼッタイに多くの人に観て欲しいショーです、 これほんまのほんまに…。 私のシンクロはこれまで、 「勝つか負けるか」ということが最大の焦点だったけれど、 そうではなく、自由に表現するという環境に 自分の身を置いてみたかったのです。 生まれ育った環境、文化や言葉、考え方、 何もかもが違う人たちがひとつのショーを作るという場で、 日本人の奥野史子の個性がどんな風に作用するのか、 それを試してみたいと思ったのです。 そして極め付けに彼が、 「フミコモゼッタイクルベキダ」と誘ってくれたことで、 私はすっかりその気になってしまったのです。 (不安なとき誰かに背中を押されるって必要よね…。) しかし、現実的な話、 それまでの収入や仕事量など考えても、 スポーツコメンテーターとしては順調だったと思いますし、 ショーに出演する方が収入は確実に減ります。 そんな中で何を優先させるべきか、 かなりかなりものすごく悩みました。 簡潔に言ってしまえば、 「かね」か「ゆめ」かというところです。 人間、「ゆめ」だけでは生活できません。 だけど、「かね」だけの生活も寂しいですね。 スポーツコメンテーターも興味深い職業です。 が、それは私の「ゆめ」ではないのです。 私の夢はいつの日か、 日本でシンクロのショーをすることなのです。 そして、そのプロセスとして、 「O」は最高の舞台だったのです。 契約料は安くっても、「ゆめ」を見に行くんだ! 今しか見られないかもしれない 「ゆめ」を見に行くのですよ。 やっと心の底から「これゼッタイやりたい〜〜〜!」って 思えるものに出会えたのです。 それが「O」だったのです。 それからしばらく悩んだあげく、 事務所のマネージャーさんに、 「私、ラスベガスのショーにチャレンジするので、 仕事やめます」 と告げました。 事務所は反対はしませんでしたが、 周囲の人は「なぜサーカス?」と、首をひねってました。 確かに「なんでサーカスやねんっ」と思うでしょう。 日本人の思う「サーカス」と「シンクロ」って どうやってもつながらないでしょう。 しかし、それがつながってしまう世界があるのです。 とにかく「O」が日本の人々に もっともっと知られるようになれば、 あの時私がとった行動が理解されるはずなのです。 「あの芸術性、想像力、エンタテインメント性を 多くの人に知ってもらいたい」 その橋渡し的な存在になるべく、 そして、本当の自分自身を試すため、 わたしはラスベガスに挑戦するのです。 この挑戦は、今、始まったばかりです。 あと数週間で、 私はラスベガスのショーガールの一員になっています。 この希望やら、 私が現場で感じるエンターテインメントの有り様を 「ほぼ日」で連載させていただくことになりました。 よろしくお願いしますね! |
2001-08-09-THU
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