時代順にお送りしているこの「恩返し」も
とうとうみうらさんの青春期のまっただ中に
突入してしまいました。
これからは、たいへん
濃ゆい人物がつづきます。
ここで告白いたしますが、この話が掲載される頃、
わたくしども「ほぼ日」は1週間ほど
全員不在にしております。
つまり、濃ゆい人たちのお話で、
みうらさんおひとりに
突っ走っていただきたく思います。
よろしくお願いいたします。




よろしくお願いいたします。




動画の冒頭で、
横尾さんについてのお話をはじめられるときに、
居ずまいを正し、
煙草を消されたみうらさんが印象的でした。
ここで、吉田拓郎さんのあとに、めざすべき人物が
とうとうあらわれたということですね。




ええ。高校も2年生くらいになると、
進学指導というのがありまして、
そこで僕は
フォークシンガーになる、ということを
先生に言いました。
そうしたら、一瞬シーンとなって
ちょっと頭を冷やしてから来い、と言われたんです。





はい。




おかしいな、と思ってね。
だいたいの仕事は
「この仕事に就くためには」というような本が出ていたり
その職業に就いた先輩がいたりするものなのに、
フォークシンガーになる道だけは、
誰ひとり教えてくれなかったんです。
ですから、ものすごく不安になりまして。




ちょうどそのときに、動画でもおっしゃっている
『横尾忠則大全集』に出会ったわけですね。
横尾さんがまるで
ロックスターのようになっている美術全集を。





衝撃を受けましたね。
あの瞬間に、自分の将来が決まりました。





それからもう何十年も経ちまして、
実際に横尾さんとお会いになったり
お仕事をなさるようになりましたね。




横尾さんにはじめて会わせてくれたのは
糸井さんなんですよ。
テレビ番組でゲストに横尾さんが来るから
みうらも来れば、と声をかけてくださったんです。
そのとき、自分の得意なウシの絵を
横尾さんの前で描いてみせたんです。
「君はこれを何分くらいで描くの?」と言われ
「いやもう、1分くらいで描けますわ!」と答えたら
「10秒で描きなさい、
こんなものは」
という、ものすごく的確なアドバイスを
いただいた覚えがあります。




みうらさんは、横尾さんの影響で
美術の道に入られたわけですが、
それ以前は、図画工作などは、
得意だったんですか?




いや、もう、「2」ばっかりで、
ぜんぜん興味すらありませんでした。
それまで、漫画やイラストは
自分で自由に、好きで描いていたんですけど、
横尾さんと同じく、アカデミックな教育は嫌いでして。
でもね、横尾さんが小さい頃に描かれていた
宮本武蔵の絵を見ると
すっごいことに気がつきまして、
「アカデミックな教育は云々」などは
簡単には言えないなと思いました。





あの模写はすごいですよね。
まあ、みうらさんは横尾さんの絵ではなく、
横尾さんご本人をめざされたわけですから。




ええ。どうしたら横尾さんに近づけるのかだけを
考えていました。
でも、吉田拓郎さんと同じく
「なれない」ということに気づくわけです。
いま、「47の恩返し」を
完成させようとしているわけですけれども、
その47の物や人は、結局オレに
「なれないよ!」
ということを教えてくれた、ということでもあります。




当時のみうらさんにとって
「かっこいい」ということが
かなりのキーワードになっていたようですね。




僕は、
・かっこいい
・エロ
・バカ
この3要素をひじょうに大切にする傾向があります。



エロチックで、クレイジーで行きすぎているものを
かっこいいと思うので、
この3要素は離れているようでいて
じつはひとつなんだと思います。




とてもよくわかります。
そして、横尾さんは、みうらさんに
「マイブーム」というものの種を
蒔いた人でもあったんですね。




うん。それは、糸井さんもです。
もうね、横尾さんと糸井さんには
一生頭が上がりません。
あのふたりには、
一生でも二生でも無理です。
かないません。




みうらさんが動画収録中に
「横尾さん、最高でございます」とおっしゃった瞬間、
なんだか涙があふれてしまいました。
動画は、今回は最高に長いですが、
最高におもしろいです。
みなさん、ぜひ右の
「ナローバンド」「ブロードバンド」の
どちらかのボタンをクリックして
見てみてくださいね。
みうらさんの14個めの恩返しでした。





撮影:安河内 羔治
みうらさんは、この横尾さんの写真を見て
「これは『横尾忠則大全集』の最後のほうのページに
載っていた写真です」と、おっしゃっていました。
写真にはテーブルが写っていますが、これとよく似た
テーブルを親戚の家で見つけ、
譲ってもらったことがあるそうです。


横尾忠則(よこお・ただのり)
美術家。1936年生まれ。
60年代からグラフィックデザイナーとして世界的に活躍する。
80年代より、絵画作品を中心に活動する。
「ほぼ日」にもこちらこちらに登場していただいている、
現代を代表する、かっこいい、偉大な芸術家です。


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2005-06-14 TUE
(c) Hobo Nikkan Itoi Shinbun 2005