「シベ超」こと「シベリア超特急」は、
映画評論家の水野晴郎さんが監督をなさっている
映画のシリーズです。
現在まで、シリーズ1〜5と7が
公開されていて、6は製作中だそうです。
これは、全体的に、びっくりする映画ですね。
まずびっくりするのは、
「シベリア超特急」というタイトルの映画なのに、
1作目の列車が、
まるで走っていないようなかんじがすること。
そして、2作目は
「シベリア超特急」というタイトルの映画なのに、
ほとんど列車が出てこないこと。
いろんな映画へのオマージュが
ちりばめられているけれども、よくわからないこと。
戦時中にもかかわらず、
ホテルの部屋がなぜかオートロックであること。
そして、水野晴郎さんが
スクリーンにあらわれたときの、観客のざわつき。
水野さんは、山下奉文大将役で
毎回出演されていますね。
試写会で、水野さんは、いつも
客席におられるんですよ。
だいたい真ん中あたりの席でごらんになって
ほかの観客とぜんぜんちがうところで
「ぉわーははははは」
と笑うんです。
それにつられてみんなも
「あ、ここで笑ってもいいんだ」
と、笑い出す。
水野さんの、自分の作品に対する愛は、
すごいんじゃないかなあ。
だって、監督ですから、
試写会までに、何回観ていらっしゃるのか、
ということを考えると、
その「ぉわーははははは」は、すごいでしょう。
毎回、映画のラストには
度肝を抜かれっぱなしで‥‥。
どんな映画でも、観終わったあと、すぐに
エレベーターのあたりで
「つまんなかったね」
と、ひとことで片づける人がいるでしょう。
それは才能と経験がない人なんだと思います。
映画は、おもしろいところを
自分で見つけるものなんですよ。
映画のおもしろさは、
与えられるものではないんですね。
「シベ超」の、船のうえのパーティのシーンで、
カメラの長回しをするところがあるんですよ。
そこで、監督をされている水野さんが
モニターを見ている姿が
カメラに映り込んでしまっているんです。
しかも、いま僕が着ているトレーナーの
オレンジバージョンを着て。
ははははは。
自分の見切れた姿をモニターで確認して、
やばいと思われたんでしょう、
モニターを見ながらハケようとして、
左右どちらにハケたらいいのかわからずに動いて
逆に出ちゃってる姿が
映画にそのまま収録されているんです。
「シベリア超特急」はそういうハプニングすら
たのしむことができるんです。
だからこそ、映画が生きている、と
言えるのではないでしょうか。
すばらしいじゃないですか。
第4作目の「シベ超」は、
映画ではなく舞台だったのですが、
コマ劇場で、舞台の最後に
「晴郎! 晴郎!」と、
晴郎コールが起こりました。
水野さんの「戦争は、よくない」の決めゼリフで
満員の場内は、拍手喝采。
僕はうれしくて、涙が出ちゃいました。
水野晴郎さんは、映画評論家として大成された方です。
なぜ映画を撮るお気持ちになられたのでしょうか。
映画界では、ほんとにすごい方ですよ。
まさに、巨人です。
水野さんは、満州で生まれて、
戦後、日本に引き上げてきた方なんです。
そのとき、どんなにたいへんだったか、
僕はたっぷり聞かせていただいたことがあります。
すごい惨状も見られたのだそうです。
シベリア超特急で、水野さん扮する
山下大将の決めゼリフ
「戦争は、よくない」には
そんな水野さんの経験が、込められています。
「シベ超」で反戦、というところが
すごいんです。
そういう、水野さんの、じつは確信犯的な
奥深い極意をわかってごらんになると、
また、いいのではないでしょうか。
DVD
BOXも、当然、出されることですし。
当然のBOX化ですね。
見ごたえがありそうです。
ある日、水野さんから
日本映画批評家大賞功労賞をさしあげます、と
ご連絡をいただきました。
僕は、何のことかさっぱりわからず、
逆に何かやってしまったのではないか、と
不安になりましたが、
こんなトロフィーをいただきました。
歴史のある賞でしたから
そんな賞にふさわしいのか心配になって、
僕が映画批評の何に功労したのか、
水野さんに受賞の理由をうかがってみたんです。
そうしたら、
「『シベ超』とか‥‥」
と、言葉につまっておられました。
そして、日本映画批評家大賞の
事務局の住所を見てみますと、
水野さんの事務所の住所とまったく同じでした。
水野さん個人が賞を決定しておられる‥‥?
きっと、そうだと思います。
賞をいただいたことは、
たいへんうれしかったです。
「『シベ超』だけじゃないですか!」と
水野さんにツッコんだら
苦しまぎれに、
「もう一作、あったでしょう。
『北京原人』が」
とおっしゃいました。
そうです、僕は東映の
「北京原人 Who are you?」を絶賛しました。
封切りをものすごくたのしみにして、
映画館で初日に観ました。
ま、観客は15人くらいだったでしょうか。
あんなおもしろい映画を、なぜ観ない!と
僕は言いたいんです。
なぜみんな、「電車男」ばかりに行くんだ!
「シベ超」も、「北京原人」も、
おもしろさが満載なわけですよ。
映画批評界の巨人が映画を撮る。
自分のお金で、映画を撮る。
朴訥としたセリフまわしに込められた
ただひとつのメッセージ。
戦争がないときにこそ、
言わなくてはならないことがあります。
「シベ超」を観て、びっくりして、笑って、
そして、泣きましょう。
みうらさんの、38個めの恩返しでした。
「シベ超」は、現在、
映画4本、舞台2本が製作・発表されている。
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2005-08-16 TUE
(c) Hobo Nikkan Itoi Shinbun 2005