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大貫さんが魅かれた、
坂井治さんの描く「穴」。
けれども2003年の
NHK「みんなのうた」の曲の中では、
この穴がいったいなんなのかについて、
実はあまり答えを出していないんですね。
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大貫 |
はい、曲をつくるときには、
そこまで考えてが到っていなかったんです。
“パラレルワールド”という、
もうひとつの世界がある、という表現で
曲は完成させていました。
けれど、この曲と映像を、
DVDつきの絵本にしようというときに、
あらためて考え直したんです。
歌詞をそのまま絵本にするようなことは
したくなかったし。
買ってくださる人のために、
表に見えるものと、
内面に入ってくるもののふたつが、
立体になってないとつまらないと考えて。
絵本は内面の世界。
DVDは表に見えるものの世界ですね。
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つまりこの穴は、自分の中だったり、
自分のすぐ近くにあって、
自分では気がつかなかった、
自分の心への入り口みたいなこと。
ほんのちょっとだけ視点を変えると、
誰にでも見つかるような穴があって、
その向こうには、とってもうれしいことだとか、
自分がほんとうに大事にしてたことだとか、
そういうものがあるんだよ、
っていうメッセージ。
「心に穴があいている」ということを
ポジティブにとらえるということがすごい!
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大貫 |
ポジティブに生きようと思っているので(笑)!
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ぼくはけっこう、なんでもネガティブに
考えがちなところがあったんですが、
そのおんなじような考え方を、
大貫さんは、前向きに、すごく大きく
捉えてくれた。
絵本をつくる過程で、
大貫さんがぼくに発見させてくれたのは
ぼくのなかにあったはずの、
ひとつの答えでした。
「自分の考えていたことは、
こういうことだったんだ!」って。
いやあ、もう、たまらなかったです(笑)。
こんな仕事、ふつう、できないです。
(坂井治さん・談) |
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どんなふうに、この曲と映像から、
ものがたりが生まれたんですか?
そもそも坂井さんのつくったストーリーは
もうすこしふつうのものでしたよね。
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大貫 |
そう、坂井さんの中では、
もっとふつうの生活のおはなしなんですよ。
イノシシが森で暮らしていたら、ある日‥‥
という世界なんです。
バケツの穴から向こうが
パラレルワールドになっていて
そこに金のまきばがある、
ということなんだけれど、
「その金のまきばは、
ほんとうはどこにあるの?」
って話になって。
絵本にするときに、
そこを突き詰めていったんです。
わたしがストーリーをつくっていくなかで
坂井さんから訥々と
「それは、ちがうんじゃないかな‥‥」
とも言われましたけれど、
それを説得しつつ(笑)。
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坂井さんは「メトロポリタン美術館」
のころからの大貫さんのファンだから
なかなか最初は言えなかったんじゃないですか?
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大貫 |
最初、なんだかすごく固まってて、
すごーくおとなしくて、大丈夫かな?
なんて思ってたんですけど、
慣れてくると、じつはそうでもなくて、
ハッキリ思うことを伝えてくれるようになって。
しかも、なかなか頑固で(笑)。
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そういう坂井さんを
大貫さんが引き出したんですよ。
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大貫 |
そうなのかな?
坂井さんもこのようなストーリー展開になるとは
考えていなかったと思います。
でも、わたしと何度も話すなかで
ある日、
「そういうことだったのか‥‥」
って、ふと言って。
私が出してきた言葉を見ながら、
「そんなこと考えなかったなぁ‥‥」って。
そこが共同作業のおもしろいところですね。
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大貫さんとやりとりをしていくなかで、
ぼくのなかでボヤッとしていたものが
こういうことだったんだと気づいたんです。
そしたら大貫さんに
「あなたの作品よ」と言われましたけど(笑)。
つまり「バケツの穴」は、ただの穴じゃなくて
イノシシの心に開いた穴なんだ、
という位置づけ。
そうしないと、きちんと読者に伝わらないよ、
っておっしゃって。
(坂井治さん・談) |
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大貫 |
でも私だって、最初、この映像を観て、
こんなことを考えてたわけじゃないんですよ。
最初、言葉を考えないで、
絵を床にダーッと並べておいただけなんだもの。
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おうちで?
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大貫 |
そう、部屋のすみに並べてね。1枚1枚。
何となくストーリーを作りながら、
言葉もまったくない状態で並べて。
それを置きっぱなしにして、
通りかかるたびに見ていたんですよ。
2ヶ月ぐらいはそうしてました。
いったい、この絵たちは、
何を言いたいんだろう? っていうことを、
ずーっとただ、ただ考えていて。
で、ある日、急に言葉を書きたくなったんです。
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へーえ!
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大貫 |
パソコンに向かって浮かんだ言葉を書いて、
それをプリントアウトして、
ひとかたまりごとに切って、絵の上に、
置いていったんですよ。
この穴の上には、この言葉を置いて、って。
そうしたら、言葉がどんどん出てきて。
置いたり、削ったり、
絵を抜かして言葉だけ書き直したり、
そういう作業がはじまったんです。
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それ、編集でいうと「台割づくり」ですね。
全体を見通すコンテづくりというか。
そこから大貫さんがやってるんですね!
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大貫 |
はい。それで、カラーコピーした絵に、
自分の言葉をパチンて留めて、
編集者と坂井さんの2人に見せたんです。
そこで坂井さんからも、
おかしいとことか、ちがうと思うとことか、
なんでもいいから言って下さい、って、
みんなでミーティングして。
何度も何度も見ながら、方向を決めて、
また持って帰って、さらに削ったり、
書き直したりして‥‥。
それを何度か繰り返したんですよ。
いちばん大切にしたのは、
リズムですね。
わたしが、他の絵本を見るときも
リズムのないものは、ちょっと退屈に思うので。
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大貫さんの「編集会議」は
たいへん面白かった、と、
担当の編集者のかたがおっしゃっていました。
まず会議の時間は3時から5時と決めたら
必ずピッタリ終わる。
しかもみんな爽やかに、今日も終わった!
というふうにものごとが決まるそうなのです。
大貫さんが切り貼りで持ってきたコンテは、
すでに文字に大小があり、
文字と絵の組み合わせには、
全体に通底するリズムみたいなものがある。
さらにその場でハサミでチョキチョキ切って、
自分たちのコンテにくっつけて。
「そこにはこの文字があったほうがいいね」
「ここには、文字はいらないよね」
とつくっていく。
ときには思いきりよく、
白いページが出てきたり、
言葉がないページがあったり。
そういうところも、ぜんぶ大貫さんが
関わりながら、坂井さん、大貫さん、
そして編集スタッフでつくるんだそうです。
大貫さんがとくに強く意識したことのひとつは
「ページをめくっていく」という
「本」の形態にあわせての、
ものがたりづくりだったということでした。 |
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