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絵本の深い世界と、
「♪うららか ウッキー」とうたう
DVDの「金のまきば」、
内面と外面のようなちがい、ということですが
この外面(うた)も、すごくよくて。
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大貫 |
ありがとう。
「NHKみんなのうた」も、
歌が出てくるまでに
50秒あるというのは
いままでなかったんじゃないかな?
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イントロでもない、不思議なシーンですよね。
これは絵本のDVDにも収録されていました。
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大貫 |
私はとにかく、最初のバケツのシーンに
自分の歌を乗せたくなかったんです。
「みんなのうた」は、規定の秒数以内なら
何をやってもいいはずだと思ったんです。
テレビって、映像が流れていて、
なにか音が聞こえていればいいはずだし、
だったら50秒のあのシーンもOKのはず。
そうして提案したら、
やらせていただけたのよ。
訊いてみるもんだなと思って!
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OKだったんですね。
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50秒のイントロがダメかどうかって、
理屈がつけられないじゃないですか。
ダメという人がいたら
「なんでですか?」って訊くと、
「いや、そういうもんだから」って。
誰も決めたことがないわけです。
だからわたしが決めました。
どうぞやってください、って。
(飯野恵子さん・談) |
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大貫 |
飯野さんだからできたんでしょうね。
仕事って、やっぱり出会いですから。
人間関係だから。
いしあたまな人と組んじゃうと、
「やんなきゃよかった」っていうこともある。
でも出会いがいいと、すごくうまく、
仕事って進んでく。スッ、スッ、スッ、スッ。
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『金のまきば』の絵本、
働く女性だけでなく、
たとえば30代の男が
異常に反応するそうです。
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大貫 |
えっ!? ほんと。へぇ。
やっぱり男の子のほうが、空虚なのかな? 今。
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そう。そんな気がします。
男のほうが、今、つらいかもしれない(笑)。
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大貫 |
それは女の子より男の子のほうがつらいよね、
もっと。もうね、ぜんぜん行き場なさそうだし
今、男の子って。
男の子、男になれないまま
一生終るみたいな感じなんだもの。
男になる前に
「あんたダメじゃん」とか
女の子に言われちゃう世の中だから。
それはやっぱり、かわいそうです。
やっぱり──「穴」ですよね、穴。
この本のテーマは「穴」。
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自分の心に穴が開いてるって、
気づきたくないだけかもしれません。
そんな穴、ないぞ、ないぞ、ないぞ、って
思って、日々暮らしてるのかもしれないです。
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大貫 |
そうっかあ‥‥(涙)
そしたら気づいても覗きたくないよね。
まっ逆さまに落ちたらどうしよう? なんて。
ブラックホールみたいなもんだから。うん‥‥。
でも、壁に開いた穴だって、よくこうやって、
覗くよね、子どもでもおとなでも。
道に穴開いてたりするじゃない?
あのとき、覗くよね。
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覗きます。
面白いものが見えるかもしれないから。
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大貫 |
ところが小さな穴は、覗いても、
その先が広くは見えないのよ。
もっと見たいのに見えない。
自分がどうやって動いても、
見えるところは限られている。
そうすると、もっと見たくなるのよ、
やっぱり穴って、存在感があるんですよ。
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その気持ちすら、忘れて生きています。
穴見て、面白かったなーって。
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大貫 |
坂井さんの描く穴のかたちがね、
すっごく良かったんです。
これ、このページ。
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大貫 |
この本の取材にいらしてくださった方の
お子さんが、
「世界地図に見える」
って言ったんですって。
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あ、反転して見えるんだ!
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大貫 |
そう。宇宙から見た、地球の一部っていうか。
わたしたちは穴だっていうふうに
わかってるから、穴としか見ないんですけど、
子どもには、陸地に見えるっていうんですよね。
その発想もすごいなと思う。
‥‥というか、そういうことなんだろうなと
思って。こういうのって。
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あー‥‥確かにそうですね。
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大貫 |
ね。そうなんですよ。
宇宙から、ワーって陸地だと思って
近づいてったら、あっ! 穴だ! っていって、
ドーンってここに落っこっていくっていう、
そういう世界なのよ、これって(笑)。
最初のバケツの穴を見たときに、
そういう4次元的な感覚で、
すごく印象が強かったんですよ。
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じゃあ、最初の穴のかたちを
最後まで使ったんですか。
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大貫 |
それがね‥‥
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坂井くん、絵を作り直したときに、
このバケツの穴のシーンも、
やっぱり修正しようとするわけですよ。
たしかに卒業制作のときよりは、
いまのほうが腕が上がっているわけだから、
作家としては、修正したいんです。
でも、それを大貫さんと止めました。
ダメッ! 前のまんまがいいの!
って(笑)。
(飯野恵子さん・談) |
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大貫 |
上手なものを見たいわけじゃないんです。
上手な絵とか、技術のある表現は、
世の中にいくらでもある。ね?
でもわたしたちは、坂井さんにそれを求めずに
最後まですすみました。
「みんなのうた」も、絵本も。
だから面白かったですよ、この仕事。
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── |
そうでしょうね。
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坂井さんの仕事は、
それはそれは膨大なものだったといいます。
でももちろん「やらされている」わけではなく
「坂井くん、そこまでやるの?!」と
まわりのスタッフが心配するような
力とたましいのこめようだったとか。
ちなみに「みんなのうた」は、作品によっては、
16枚〜20枚程度の絵を描いて
それをそれを撮影するときのカメラワークで
ちゃんとアニメーション的に見えるものがつくれるし、
枚数が少なくてもその音楽や絵の個性によっては、
十分伝わるものも作れるのだそうです。 |
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大貫さん、絵本づくりに1年かけて、
「できた!」と思った瞬間はありましたか。
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大貫 |
この絵。これを坂井さんが描いてくれたときに、
そう思いました。
「とどいたな」って。
これは映像にはなく、
絵本でしかない絵なんです。
これを見たときに、
「あ、できた」と思ったんですよ。
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ちょっと怖い絵ですね。
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大貫 |
そう。アップなんだけど、けっこう衝撃で。
この鼻の穴も、いま話したような「穴」
バケツの穴の向こうには
金のまきばがあったけれども
鼻の穴から金のまきばへは行けないの(笑)。
さらに、
いちど見つけた金のまきばへの
入り口だからといって
それはいつも行けるという
入り口ではないんですね。
また探さなければいけない。
そこに居さえすればしあわせなんだと
ひきこもられてもこまりますから。
だから‥‥誰かを救うという
絵ではないのだけれど。
よく、自分のことは置いといて、
人にはしあわせになってもらいたいという
考え方があるでしょう?
そういうのは好きじゃない。
自分がしあわせでなければ、
人をしあわせになんかできない。
そうじゃない?
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── |
自分が楽しそうじゃなくて、
人が楽しそうにしてくれるわけがないです。
「おまえといると楽しいなぁ!」
って言われるほうがうれしいです。
「おまえとメシ食うと、うまいんだよ!」
って言われるほうがうれしいです。
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大貫 |
そうですよね(笑)。
だから、もっとみんな、
自分をしあわせにするために、
がんばろう!
あっ、言っちゃった(笑)。
この本ではそれも言いたいんです。
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音楽では、言わないことですか?
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大貫 |
歌詞にはなかなかなりにくいですね。
メロディーにはすでに
情感というものがあるので。
そこにさらに強い言葉を乗せちゃうと、
しかも私の声で歌うと、
グサッ! っと真っすぐ
入りすぎる気が‥‥(笑)。
だからわたしの歌詞、
ほんとはこう言いたいんだけど、
っていうのを、別の表現に変えること多いです。
ためしに、と、
そのものずばりの歌詞を
つくってみたこともあって
そしたら、スタジオがシーンとなっちゃった(笑)。
音楽は何度も聴くうちに染みてくる
くらいの方がいいです。
わたしも、ストレートな歌詞のものは
聴いていて辛くなりますから。
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グサグサグサ!(笑)。
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大貫 |
だけれど、この絵本ではそれができました。
そしてDVDに入っている歌のほうは
そんなにグサグサ言っていませんから(笑)。
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