第4回
男らしさの境界線。
糸井 じゃあ次は、
某大手広告代理店の田中さん
見事に「男社会」のハズですよね。

とっても大きい会社で、
営業が大きなチカラを持ってますから、
「飲む」だの「抱く」だの、そういう話は
きっと、昔はさんざん飛びかっていたでしょう。
今はどういう感じかも含めて、
伺いたいんですけど。
田中 最初、会社に入った時の「男らしさ」は、
やっぱり、「おごってくれる人」でした。
糸井 (笑)わかりやすくてイイなぁ。
田中 それまでは学生で、焼肉を食べるのも
ちょっと躊躇するような暮らしだったのが、
会社に入ると、お昼はおごってもらえるわ、
夜には4軒5軒連れまわされるわ、みたいな。
「よくお金を使う人たちだなぁ」と思いました。
あと、やっぱり、男はお酒を飲みますねぇ。
糸井 来たね、「金」と「酒」という要素。
田中 金と酒でした・・・。
当時はやっぱりまだバブル期でしたから、
会社も余裕がありまして。
社員のほうから、率先して
景気をよくしていた感じがありました。

会社に4〜5年もいると、
別の男らしさに感激しちゃうんですよね。
つまり、「責任を取る人」でした。
糸井 お、いい感じの話が来たよー。
田中 敏腕営業部長系なんですが、
お前ら好きにせいと。
でも得意先の情報はこまめに入れたりして、
企画やプラン自体を誘導していくわけですよ。
で、最終的な責任は、ぜんぶかぶると。
「お前らのせいにはしない」という・・・。
今の男らしさは、そっちかなぁというか。
糸井 それは、参考になるなぁ。
田中 それと、もともとは
「金払いがいい」「よく酒を飲む」「よく食う」
そういうのが男らしく見えてたんですけど、
だんだん、やっぱり女性が増えて来たんです。
そこでちょっと、動きがありますね。

特に、ぼくがいたマーケティングは
女性が入りやすい部門だったので、
ちょうど、雇用機会均等法1号っていうのが、
ぼくの5年くらい上にあたる人なんですよ。
今年、40歳になるくらいの人から・・・。
入社した時は男子高みたいだったのが、
今は国立大学ぐらいの男女比になっています。

会社の中でいちばん男っぽいとされる局は、
もう、博打打ちみたいな男の世界なんですけど、
その世界でも、最近、女性が入ってきてまして。
宴会で脱ぎ芸を出しにくくなってきたとか、
そういう話は、聞きますけどねえ・・・。
糸井 脱ぎ芸は、男の範疇ですね。
女性が増えてきて、
仕事的には、どういう変化が出てきましたか。
田中 団塊の世代とそれより下との違いって、
「団塊の世代には、
 男っぽい演技をしている人が多いなぁ」
ということだと思うんです。

まず、男の先輩からの、
「女の怒りかたがわからない」
という話を、よく聞いてたんですよね。
男はわりと怒鳴りやすいと。
「こら、田中!」みたいな感じで大声出せばいい。
でも、女の怒りかたがわからん、みたいなことが、
たぶん、男っぽい演技の
崩壊の兆しだったような気がするんですよ。
糸井 それは大きいなぁ。おもしろい!
田中 立場があると、責任が増えて、
演技をしやすくなるじゃないですか。
だけど、団塊の世代は人数が多いので、
だから、ポストがあまりなかったりして、
のびのびと演技をする場がなくなってきている。
そういうところは、ありますね。

どこの会社でもそうなってきてる気がするから、
見渡せば、「男の演技」っていうのだけが
浮わついている時代になってるかもしれないです。

糸井 参考になったなぁ。

柳瀬さんの最初に勤めた職場では、
女性が増えたことで何か変わりましたか?
柳瀬 ずいぶん変わってきました。

昔は、女性がほとんどいなかったから、
女性記者は男以上に過激な男になって、
そのへんでゴロッと寝てたりしてましたが、
今は、全体的には、違いますもん・・・。

ぼくの勤めているところで、
職場が禁煙になったということが
まず、大きな変化だと思うんですけど。
糸井 ああ、タバコとの関係は大きいですねえ。
柳瀬 3人くらいマッチョな人がいて吸ってても、
もうタバコはにおわないんですね。
そういうデオドラント効果が・・・。
糸井 (笑)デオドラント効果。うまいこと言うなぁ。
柳瀬 50人中、仮に女性が1人だと男化する。
今度、10人以上に女性が増えてくると、
今度はまた、別の組織になります。
糸井 消し合うんですね、匂いを。
柳瀬 そうなんです。
だから、ぼくが新人の時に
デスクを見ていた感じで「こわい!」とは、
今の大卒新人たちは、思っていないだろうと。

小学校の時に想像していた
「オトナになった時の自分」よりも、
今の自分はガキみたいだという話とは、
かなり違うところで、そうなんじゃないでしょうか。

サザエさんの波平さんは54歳で、
実はイトイさんと同い年なんですよ。
波平さんが男らしいかはさておき、
昔のお父さんって、
波平さんのイメージじゃないですか。

でも、島耕作は55歳で取締役になっている。
島耕作は、波平よりも年上なんです。
糸井 あいたたた。
柳瀬 島耕作は、作者の弘兼さんと同年齢だから、
34歳で課長になったところから、ずっと続いて、
部長になって、取締役になって、と来てる。
そのへんの団塊の人たちが、ちょうど、
ぼくが入社した時のデスククラスの下の方で、
男らしさの分水嶺になっているんですよ・・・。

だから、団塊の世代以上の人と話さないと、
男くささのマーケットには、
もう、触れられなくなってきているような。
ですから、さっきぼくが言ったような
男くさい職場は、新聞社でもなくなってきました。
糸井 なんか、おもしろいねえ。
晴れから雨になったり、
雨から晴れになったりする途中には、
「くもり」があるように、
男くささが消えていく過程には、
「くもり」の時代があると思うんです。

ぼくはちょっとわかったんですけど、
その「くもり」にあたるものって、
「ビジネスマン」や「ニューヨーカー」という
そういう媒介物なんじゃないでしょうか。
アメリカンでMBAな人が、
男のイメージの間に入ってきたんじゃないですか?
田中 あ、確かに、前は、
男っぽい人はみんな英語できなかったですね。
糸井 で、「英語できる派はかっこいい」という
流れになって行ったんです。
田中 そうですね。
社内でも、最近は昔よりも国際派が活躍してる。
糸井 (笑)「国際派」かぁ・・・。
その大きなジャンルも、語りあいたいぐらいだ。
つまり、民族派の「男らしさ」は消えてきた。
田中 やっぱり、その男っぽさでは、
グローバルに利かないんですよね、きっと。
糸井 (笑)つまり日本民族としての
武士(もののふ)ぶりが、そこで消えたと。
万博あたりがあやしい時期かもしれないね。
柳瀬 やっぱり世代としては団塊の世代とか。
糸井 団塊が変わり身したやつと・・・。
田中 泣き別れで、転向派が出てきた。
糸井 (笑)転向派が出て来たんですよ。
だからその、今でもおふくろの味を懐かしむように、
たまに、「男」というものの演歌をうたうんですね。

おとなりの韓国でも、きっと昔は
「マッカリ飲んで殴りあった仲」
とか、そういうものがあったと思うんです。
でも、今は、安貞桓みたいな顔で、
ロン毛で指輪にキスですから・・・。
柳瀬 ・・・ああ、いかんですねえ。
糸井 (笑)「いかんですねえ」って!
 
(つづく) 

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2003-02-28-FRI


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