第7回
男の受注。
糸井 柳瀬さんは、肉体はけっこうマッチョですよね。
性格は・・・?
柳瀬 会社で手が空いてる時は、
アシスタントの女の子と
どうでもいい話をしてる時間が一番長いですねえ。
祖父江 落ち着くよね。
田中 (笑)
柳瀬 電話なんかでも、
ふつうのともだちの女の子と、
話すのが8割ぐらいかなぁ。

どうでもいい、
足し算にも引き算にもならない話を
ダラダラしてるのが、いちばん落ち着く。

そもそもただおしゃべりが好き、
ってのがあるんですけど、
男相手だと、なんか話の内容に
意味を求めようとしちゃうじゃないですか。

ぼくの血中の男濃度が低いのかもしれない。
糸井さんも、実は、
血中男濃度は低いじゃないですか・・・。
糸井 今、男についてしゃべってたら、
どっちなんだかわかんなくなって来たんです。
しり (笑)あはは。
柳瀬 糸井さんも、女の子と話すほうが
実はラクじゃないですか?
糸井 両方好きなんですよ。
ぼくは意外と、
ゲイとかにすごいシンパシーがあるんだけど、
「中性」っていうジャンルじゃないかなあ。
「引き受けましょう」「断らない」「ドスン」
みたいな要素は、あんまり・・・。
柳瀬 あの、そこなんですよ。
編集者の仕事って基本的に細かいじゃないですか。
で、まず引き受けるかどうかってところで、
ぼくの場合は、ドーンと構えて
「オウ」って引き受けるんじゃなくて、
気が弱いから、こう、
なんだかけっこう引き受けちゃうっていう。
しり (笑)
糸井 「気が弱いから引き受ける」
っていう話かぁ、なるほど。
柳瀬 相手が「おもしろいですねえ」と言ってて
話が盛りあがっているうちに、いつのまにか、
「わかりました」「やります」みたいになって、
それで実際に届いた原稿が、
「あちゃあ、こりゃちょっと大変だなぁ」
というレベルでも、ぼくのところで
何とかしようって思っちゃうんですね。

編集者の男っぽさって、ふたつあると思うんです。
「キミのためを思って言うけど、
 この原稿じゃダメだよ」と諭す男っぽさと、
「原稿ありがとうございます」と引き受けた後、
こちらでぜんぶ直しましたという男っぽさ・・・。

何を男っぽいと呼ぶかによって
違ってくると思うんですけど、
ぼくに男っぽさがあるとすれば、ほぼ、後者です。
気が弱いがゆえの男っぽさというか。
糸井 うんうん。
柳瀬 で、けっこう抱え過ぎちゃう・・・。
糸井 「男」を考える、いいヒントだね。
柳瀬 編集者として引き受けたからには、
なんとかしようと思いますが、
「こんな原稿直せねえよ」
って夜中にひとりでキレたり、いろんな原稿が
束になって届いて、机の上が崩れ落ちたり・・・
そこらへんが乱雑になってゲラゴミがたまったり。
まぁ、ホームレスのような机になってるんですけど。
それで、資料がなくなって困ったり。
糸井 あぁ・・・。
柳瀬 それでアシスタントの女の子とか
先輩女性記者に、何とかしてって泣きついたり、
まぁ、半径5メートルぐらいの人から見ると、
「もっとも男っぽくない人」なんですね。

でも、社外の仕事相手からみると、
「柳瀬さん、スパッと引き受けてくれて
 どうも、ありがとう」
・・・もしかすると、相手はぼくのことを、
男っぽいと思っているかもしれない。
糸井 なんか、その仕事のやりかた、
田中さんに似てませんか?
田中 聞いてて、似てますねえ・・・。
糸井 (笑)そうとう似てた。
しりあがりさんの引き受けかたも、
ちょっと、近いですね。バリバリ受ける。
しり やっぱり、何かトラブるのがイヤだっていうか、
仕事とかを選んでいると、
じゃあ、受けた仕事って、かなり
一生懸命やんないといけなくなりますよね。
糸井 (笑)
しり だから、
「受けておくから勘弁してよ」と。
いいわけをつけるためみたいな、
自分ではそう思っているんですけどね。

糸井 なるほどなぁ。
一方で、祖父江さんは
1年待ちと言われるくらい、
「ほんとは無理なんですよね・・・」
という状態で、やっているでしょう?
祖父江 だいたいは、
「受けるのはOKでも
 ・・・できないかもしれない」って。
しり (笑)
糸井 ぼく、ちょっとわかる。
まずは、そこからですよね。
祖父江 うん。
糸井 その割には、どうして引き受けたんだろう、
っていうくらい、いっぱい仕事してますよねえ。
タダに近いようなことも含めて。
祖父江 うーん。
何か、やっちゃうんですよ。
時間や予算がないほどがんばってしまうとこが、
あるかもしれない。
「もう間にあわない!」っていうことになると、
「・・・でも、今できかけている案で
 おわらせるべきではない」
って気持ちに、どんどん行っちゃうんです。

ムダにタイトル文字をひと文字ずつ書きはじめたり。
糸井 (笑)それは、マゾとは違うんですか?
祖父江 どうだろう。
マゾではないと思うんですけども。
好きなこととかやりたいことっていうのを、
あとまわしにしちゃうことがあって、
糸井 ああ、なるほど。
祖父江 好きなことが、いちばん
間に合わなくなってくるんですよ。
しり (笑)
祖父江 これだけはきちんとやろうとすると、
どんどん、その時間がすくなくなってくるんです。
そのせいかなぁ。
糸井 (笑)つまり、おいしいものを、あとで
食べようと思っていて、給食の時間が終わると。
祖父江 うん。
だけど、
おいしいものを充分味わないと
気が済まないから、
5時間目に、大好きなものだけ、
歯の横において授業うけたりして・・・。
田中 (笑)
祖父江 それを、仕事でもできればいいんですけどねえ。
糸井 今の祖父江さんの
「安くてむずかしい仕事ほど燃える」
っていうのと同じような気持ちに、
表現者って、ぜったいなるんですよね。

「わかってないヤツから来た話だけどさぁ」
って、親しい人に
愚痴だか自慢だかわかんない話をするという。
田中 (笑)
糸井 「何か答えはあるんだよね?」
って言ったまま日が暮れたり。

だけど、実はある業界の1位を
ひっくりかえすっていう話には、
1位以上の予算も
時間的なコストもかかるんです。
そんな準備できる会社って、ほとんどない。
だから、だいたい、
「惜しかったですねぇ」
っていう思い出づくりになっちゃうんですよ。
柳瀬 (笑)
糸井 負けた太平洋戦争でも、
軍事的な自慢話はできるというか。
しり (笑)ははは。
糸井 そこまで見通しがきいちゃうと、
どこかのところで、
負け戦を肯定できる人生になってくる。
だったら、10位のものを9位にあげるでも
何でもいいんだけど、自分から、
「ぜひやらせてください」って
お願いするような仕事を見つけたら、
そっちをやってたほうが、
大きなものが得られる、
ということがわかったんです。
柳瀬 なるほど。
糸井 ここのジャンプはねえ、
ぼくにとってはね・・・あ、
人類にとっては後退かもしれないんだけど
田中 (笑)
糸井 俺にとっては、長大な第一歩だったんですよ。
頼まれ仕事は、自分から頼む仕事に
還元できるかということを、1日おくようにして。
変換できない仕事は、絶対やっちゃいけないんです。
それを実験してみると、
全仕事がおもしろいんです。魔法のように・・・。

相手は全然やりたくないと思ってるのに、
こっちからやらせてくださいっていう
プレゼンテーションをする機会を、
これからは持ちたいんですよ。
しり うん。
  (つづく) 

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2003-03-05-WED


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