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糸井 |
柳瀬さんは、肉体はけっこうマッチョですよね。
性格は・・・? |
柳瀬 |
会社で手が空いてる時は、
アシスタントの女の子と
どうでもいい話をしてる時間が一番長いですねえ。 |
祖父江 |
落ち着くよね。 |
田中 |
(笑) |
柳瀬 |
電話なんかでも、
ふつうのともだちの女の子と、
話すのが8割ぐらいかなぁ。
どうでもいい、
足し算にも引き算にもならない話を
ダラダラしてるのが、いちばん落ち着く。
そもそもただおしゃべりが好き、
ってのがあるんですけど、
男相手だと、なんか話の内容に
意味を求めようとしちゃうじゃないですか。
ぼくの血中の男濃度が低いのかもしれない。
糸井さんも、実は、
血中男濃度は低いじゃないですか・・・。 |
糸井 |
今、男についてしゃべってたら、
どっちなんだかわかんなくなって来たんです。 |
しり |
(笑)あはは。 |
柳瀬 |
糸井さんも、女の子と話すほうが
実はラクじゃないですか? |
糸井 |
両方好きなんですよ。
ぼくは意外と、
ゲイとかにすごいシンパシーがあるんだけど、
「中性」っていうジャンルじゃないかなあ。
「引き受けましょう」「断らない」「ドスン」
みたいな要素は、あんまり・・・。 |
柳瀬 |
あの、そこなんですよ。
編集者の仕事って基本的に細かいじゃないですか。
で、まず引き受けるかどうかってところで、
ぼくの場合は、ドーンと構えて
「オウ」って引き受けるんじゃなくて、
気が弱いから、こう、
なんだかけっこう引き受けちゃうっていう。 |
しり |
(笑) |
糸井 |
「気が弱いから引き受ける」
っていう話かぁ、なるほど。 |
柳瀬 |
相手が「おもしろいですねえ」と言ってて
話が盛りあがっているうちに、いつのまにか、
「わかりました」「やります」みたいになって、
それで実際に届いた原稿が、
「あちゃあ、こりゃちょっと大変だなぁ」
というレベルでも、ぼくのところで
何とかしようって思っちゃうんですね。
編集者の男っぽさって、ふたつあると思うんです。
「キミのためを思って言うけど、
この原稿じゃダメだよ」と諭す男っぽさと、
「原稿ありがとうございます」と引き受けた後、
こちらでぜんぶ直しましたという男っぽさ・・・。
何を男っぽいと呼ぶかによって
違ってくると思うんですけど、
ぼくに男っぽさがあるとすれば、ほぼ、後者です。
気が弱いがゆえの男っぽさというか。 |
糸井 |
うんうん。 |
柳瀬 |
で、けっこう抱え過ぎちゃう・・・。 |
糸井 |
「男」を考える、いいヒントだね。 |
柳瀬 |
編集者として引き受けたからには、
なんとかしようと思いますが、
「こんな原稿直せねえよ」
って夜中にひとりでキレたり、いろんな原稿が
束になって届いて、机の上が崩れ落ちたり・・・
そこらへんが乱雑になってゲラゴミがたまったり。
まぁ、ホームレスのような机になってるんですけど。
それで、資料がなくなって困ったり。 |
糸井 |
あぁ・・・。 |
柳瀬 |
それでアシスタントの女の子とか
先輩女性記者に、何とかしてって泣きついたり、
まぁ、半径5メートルぐらいの人から見ると、
「もっとも男っぽくない人」なんですね。
でも、社外の仕事相手からみると、
「柳瀬さん、スパッと引き受けてくれて
どうも、ありがとう」
・・・もしかすると、相手はぼくのことを、
男っぽいと思っているかもしれない。 |
糸井 |
なんか、その仕事のやりかた、
田中さんに似てませんか? |
田中 |
聞いてて、似てますねえ・・・。 |
糸井 |
(笑)そうとう似てた。
しりあがりさんの引き受けかたも、
ちょっと、近いですね。バリバリ受ける。 |
しり |
やっぱり、何かトラブるのがイヤだっていうか、
仕事とかを選んでいると、
じゃあ、受けた仕事って、かなり
一生懸命やんないといけなくなりますよね。 |
糸井 |
(笑) |
しり |
だから、
「受けておくから勘弁してよ」と。
いいわけをつけるためみたいな、
自分ではそう思っているんですけどね。
|
糸井 |
なるほどなぁ。
一方で、祖父江さんは
1年待ちと言われるくらい、
「ほんとは無理なんですよね・・・」
という状態で、やっているでしょう? |
祖父江 |
だいたいは、
「受けるのはOKでも
・・・できないかもしれない」って。 |
しり |
(笑) |
糸井 |
ぼく、ちょっとわかる。
まずは、そこからですよね。 |
祖父江 |
うん。 |
糸井 |
その割には、どうして引き受けたんだろう、
っていうくらい、いっぱい仕事してますよねえ。
タダに近いようなことも含めて。 |
祖父江 |
うーん。
何か、やっちゃうんですよ。
時間や予算がないほどがんばってしまうとこが、
あるかもしれない。
「もう間にあわない!」っていうことになると、
「・・・でも、今できかけている案で
おわらせるべきではない」
って気持ちに、どんどん行っちゃうんです。
ムダにタイトル文字をひと文字ずつ書きはじめたり。 |
糸井 |
(笑)それは、マゾとは違うんですか? |
祖父江 |
どうだろう。
マゾではないと思うんですけども。
好きなこととかやりたいことっていうのを、
あとまわしにしちゃうことがあって、 |
糸井 |
ああ、なるほど。 |
祖父江 |
好きなことが、いちばん
間に合わなくなってくるんですよ。 |
しり |
(笑) |
祖父江 |
これだけはきちんとやろうとすると、
どんどん、その時間がすくなくなってくるんです。
そのせいかなぁ。 |
糸井 |
(笑)つまり、おいしいものを、あとで
食べようと思っていて、給食の時間が終わると。 |
祖父江 |
うん。
だけど、
おいしいものを充分味わないと
気が済まないから、
5時間目に、大好きなものだけ、
歯の横において授業うけたりして・・・。 |
田中 |
(笑) |
祖父江 |
それを、仕事でもできればいいんですけどねえ。 |
糸井 |
今の祖父江さんの
「安くてむずかしい仕事ほど燃える」
っていうのと同じような気持ちに、
表現者って、ぜったいなるんですよね。
「わかってないヤツから来た話だけどさぁ」
って、親しい人に
愚痴だか自慢だかわかんない話をするという。 |
田中 |
(笑) |
糸井 |
「何か答えはあるんだよね?」
って言ったまま日が暮れたり。
だけど、実はある業界の1位を
ひっくりかえすっていう話には、
1位以上の予算も
時間的なコストもかかるんです。
そんな準備できる会社って、ほとんどない。
だから、だいたい、
「惜しかったですねぇ」
っていう思い出づくりになっちゃうんですよ。 |
柳瀬 |
(笑) |
糸井 |
負けた太平洋戦争でも、
軍事的な自慢話はできるというか。 |
しり |
(笑)ははは。 |
糸井 |
そこまで見通しがきいちゃうと、
どこかのところで、
負け戦を肯定できる人生になってくる。
だったら、10位のものを9位にあげるでも
何でもいいんだけど、自分から、
「ぜひやらせてください」って
お願いするような仕事を見つけたら、
そっちをやってたほうが、
大きなものが得られる、
ということがわかったんです。 |
柳瀬 |
なるほど。 |
糸井 |
ここのジャンプはねえ、
ぼくにとってはね・・・あ、
人類にとっては後退かもしれないんだけど |
田中 |
(笑) |
糸井 |
俺にとっては、長大な第一歩だったんですよ。
頼まれ仕事は、自分から頼む仕事に
還元できるかということを、1日おくようにして。
変換できない仕事は、絶対やっちゃいけないんです。
それを実験してみると、
全仕事がおもしろいんです。魔法のように・・・。
相手は全然やりたくないと思ってるのに、
こっちからやらせてくださいっていう
プレゼンテーションをする機会を、
これからは持ちたいんですよ。 |
しり |
うん。 |
|
(つづく) |