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糸井 |
すこし、話を戻したいと思います。
倫理の中の男らしさで、よく例に出るのは、
「暴漢に襲われた彼女とオレ」・・・。
これは、みなさん、どうお考えになりますか?
相手は、ヤクザとしましょう。
もう明らかにバッジなんか見えてたりする。
・・・どうでしょう? |
田中 |
あんまり、無理できないですよね、
自分としても。 |
糸井 |
(笑)そういう非常事態を、
田中さん、考えたことはありますか? |
田中 |
ありますね。
当座のところは、
暴漢と仲良くしようっていう風に・・・。 |
糸井 |
カギカッコで言うと「話せば分かる」と。 |
田中 |
(笑) |
糸井 |
柳瀬さんは、考えたことありますか? |
柳瀬 |
ありますねえ。いくつかありますねえ。
「話せばわかる」も「逃げるが勝ち」も。
ただ、自分だけ逃げるとマズイから
追いつかれたらどうしようという要素がある。 |
糸井 |
(笑) |
柳瀬 |
話せばわかる振りをして、
隙をついて何かしちゃうとか、考えますね。 |
糸井 |
つまり、物語仕立てじゃないと、
答えにならないわけですね・・・。 |
柳瀬 |
ならないですね。
だいたい、つまらないドラマが出てきて、
あまりのドラマのつまらなさに、
途中で考えるのやめますよね。 |
糸井 |
やっぱりそこは「保留」っていうことですね。 |
柳瀬 |
ええ。保留です。 |
糸井 |
三国志好きのしりあがりさんは、
そういうの、考えたことありますか? |
田中 |
(笑) |
しり |
つい2〜3日前も、彼女じゃなくて
「子どもは守れるか?」とか聞かれました。 |
田中 |
ああ・・・。 |
糸井 |
マンガの中では、ギリギリ、
そういう話を書こうとしますよね。 |
しり |
ハッピーエンドになんないですけど(笑)。 |
柳瀬 |
(笑) |
糸井 |
マンガだったら
死んじゃっても、かまわないんだよねえ。 |
しり |
自分で考えたのは、
「ケガまではいいかな」と思うんですよ。 |
糸井 |
うん。 |
しり |
でも死ぬのはイヤなんですよね。
やっぱり子どもだろうと彼女だろうと、
自分が死ぬのはどうもちょっと
受け入れられないかなとか思ったんですよ。
「自分が死んだら、
きっとその人も死んでしまうじゃないか」
とか、言いわけも含めて考えると、
「その時はね逃げるかもしれないけど、
仇は伐つべきだなぁ」とか。
こーゆーの、ヒキョーかなぁ。 |
糸井 |
(笑)現実として考えると、
ほんとにみんな、保留になるねえ。
祖父江さんは、
そういうことを考えたことありますか? |
祖父江 |
・・・つらいことは
なるべく考えないようにしてるのかも。 |
糸井 |
(笑)ほう。
まずは単純に言うと
君子あやうきに近寄っちゃいけないよ、
っていうのが、前提としてありますよね。 |
祖父江 |
そうですねえ。 |
糸井 |
でもまあ、この場合は、
「あやうき」が走ってくるわけだよねえ。 |
柳瀬 |
(笑) |
糸井 |
・・・いや、ぼく自身もわかんないんですよ。
だから、みんなに聞いてみたかったんですけど。
ここにいる人が偉いのは、
少なくとも、ウソついてないですよね。
ほら、よく「男なら助けるべきだ」とか、
すぐに答えられる人も、いるじゃないですか。
ぼくはそういうことに対する
「ほんとかな?」っていう気持ちが強いんです。
まぁ、一方では、実際は、案外、
できちゃうんじゃないかなぁっていう
期待値があるんですよね。 |
しり |
あぁ。
2〜3日前に聞かれた時に出てた例では、
小学校の校長先生とかに、
「子どもがおぼれていたら救いますか?」
という話になった時に、案外、
たくさんの人が飛びこむって言うんですよ・・・。
「飛びこまなかったら、
あとで何を言われるかわかんない」とか。
要するに、飛びこむべきだっていう方の
プレッシャーが強ければ強いほど、
飛びこむっていうか、自分が盾になれるという。 |
糸井 |
うんうん。 |
しり |
もう、男らしさでも何でもないんですけど、
「できないけど、そうすべきだ」みたいなものが、
案外、人を救うこともあるかなぁ、と言うか・・・。
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糸井 |
「べきだ」でついに動いちゃったことも、
ひょっとして、みんな、経験あるんじゃないですか?
ともだちが何かに巻きこまれた時に、
若いころ、ぼくもよく当事者になったんだけど、
結局は「なんで俺が!」って思うようなケンカとか
させられたりしてるんですよねぇ。
自分のことだったら、
逃げたりガマンしたりするんだけど、
他人の時には、妙にバーチャルになっちゃって。 |
柳瀬 |
なるほど。 |
糸井 |
そういう要素も考えると、正直に
ここで答えようとしても、
ほんとうの現場での答えはわからないですよね。 |
田中 |
案外、やっちゃうかもしれないですね。 |
柳瀬 |
ええ。
シミュレーションしていると、
実際に動く時とは、
ぜんぜん違う動きになるでしょうね。 |
糸井 |
ただ、今までそういう
巻きこまれたドタバタが何回かあったけど、
実は自分の中には、1個だけポイントがあって、
絶対に勝ちか引きわけるヤツとしか
やってなかったわ・・・(笑) |
田中 |
ああ・・・。 |
柳瀬 |
なるほど。 |
しり |
ぼく、昔事務所に泥棒が入った時があって、
ドアを開けたら
いきなりそいつが飛び出してきたんです。
その時、もう夢中だけどなんか大声出して、
「おまえ、何やってんだ!」
みたいなことを言って
ちょっと追っかけたりもしてて、
「いやぁあの時はよくやったなぁ」
と笑ったんだけど、やっぱり
あとで考えると、小っちゃかったですね。 |
糸井 |
(笑)相手が。 |
しり |
小っちゃかった。 |
糸井 |
だって、ボブ・サップが来たら? |
しり |
(笑)サインもらったりして。 |
糸井 |
攻撃はしないけれども、
話しあいのきっかけを作る、
みたいな行動をとるんだろうね・・・。
白旗に近いような。 |
祖父江 |
そうですね。 |
田中 |
一応、直感的に、
負けの歩留まりっていうのを
パッと判断するんでしょうね、本能的に。 |
糸井 |
(笑)このへんだ、と。 |
田中 |
思えば男らしかった、
っていう話で思い出したんですけど、
昔、彼女と彼女の友だちと高速道路に乗って、
パーキングエリアに停まったんですよ。
みんなトイレに行って、
走り出した瞬間に、彼女が
「あっ!」とか言ったんですね。
「トイレに財布忘れて来た」って言ったんですよ。
その時にぼくは、
無意識に500mくらいバックしたんですよ、
高速道路を。
あとから思えば、
男らしいことしたなと思ったんですね。 |
糸井 |
(笑)男らしかったんだ・・・。 |
田中 |
ただ、今あらためて考えてみると、
やっぱりその時、バックしても
追突されないだろうなぁというのは、
本能的に見えてたからやっちゃったんじゃないか、
と思いますね・・・。 |
糸井 |
やっぱり、本能的というか、
動物的直感みたいなのがはたらくのかなぁ。 |
祖父江 |
きっとそうですよ。 |
糸井 |
でしょうねえ。 |
祖父江 |
カンで動くしかなくなりますねえ。 |
糸井 |
そのセンスを持ってないと、コワイね。 |
柳瀬 |
もしかしたら、
けっこう実は演算値みたいなのが
その人なりに蓄積されているのかも。
たとえば、スポーツ選手は、
反射のスピードで
どんなシチュエーションでも、
パンと反応できるじゃないですか。
バスケットやサッカーの選手だったら
習ってないフォーメーションプレイでも
パッとできるみたいなのがあって、ただ、
訓練されてない人が訓練されてない場所で
訓練されてないシチュエーションに出た時には
凍っちゃうとか・・・。 |
糸井 |
凍っちゃうってのはダメだね。何にせよね。 |
柳瀬 |
うん。
だから動ける時っていうのは、
実は自分の中で、1回は
演算をしているようなことなのかもしれない。 |
田中 |
うん。 |
|
(つづく) |