よりみち
パン!セ
中学生以上すべての人たちへ。
キミたちに、
伝えたいこと。




世界が、算数の足し算や引き算のように
単純にできているのなら、
2+3=5のように僕も自信を持って
正解をあなたに伝えられるけれど、
残念ながらというか幸運にもというか、
この世界はそんなに単純にはできていない。
メディアの量はかつてとは
比べものにならないくらいに増えたけれど、
それを受け取る人の時間は、
一日二十四時間で昔と変わらない。
だからメディアは、いろんな現象や事件を、
効率のよい情報にまとめだした。
大切なのは、
世界は多面体であるということ。
とても複雑であるということ。
そんな簡単に伝えられないものである
ということ。
でもだからこそ、豊かなのだということだ。



世界を信じるためのメソッド
ぼくらの時代のメディア・リテラシー

森 達也

(購入はこちらAmazon.com)

ある遅めの朝。ダラダラと起きだし、
なんとなくテレビをつけたら、森さんの顔がアップに。
「あれ?」と思っていると、
「ギャラだよ、お・か・ね。金のため。仕方ないじゃん」
という言葉がご本人の口から。
しかも顔は、いままで見たことないふてくされ顔。
夢かと思いました。森さんであって森さんでな~い
このシーン。そしてそのあとも延々続くのは、
映像中、TVディレクターであるらしい森さんの
身勝手な行動。振り回されて大迷惑の周囲。
いっしょに観ていた8歳の娘は、
画面のなかの森さんを指さし、
「この人、ものすっごい、やな人だねええ!」
と言い捨てた。慌てて私、
「ちがうよっ、お母さんはこの人たまたま知ってるけど、
 すごくやさしい人だよっ!」
「ありえな~い!!」
と娘(涙)。

これはドラマなんだろうか、
森さんそもそも役者志望だったはずだし‥‥でも
このドキュメントタッチの作られ方って一体??
森達也の真の姿を暴く! っていう番組…??
いやいやいやこれはなにかあるはずと思いつつ、
ついつい見たことがない森さんの傍若無人ぶりが
おもしろくて、その映像の由来もわからぬまま、
最後まで観る。終わって、クレジットロールが流れる。
「役名」の横に役者名が配置されたものが流れる。
「森達也(役) 森達也」……そんなふうなクレジットが
えんえん続いたところで、ようやく番組作品名が。

『森達也の「ドキュメンタリーは嘘をつく」』

もりたつやの横にもりたつやって書いてあるう!
と不可解な顔の娘の横で、
そうだったのかあ!
となぜかほっとする私。

……話が長くなりましたが、
パン!セの森さんの本第2弾は、
『世界を信じるためのメソッド
 ----ぼくらの時代のメディア・リテラシー』。
「メディア」は公正中立な客観的な装置なんかじゃなくて、
メディアって、つまりは人であるということ。
だから間違えるし、
間違えたことをときにごまかしもするし、
人為的な報道はそもそもあたりまえであるということ。

冒頭のTV作品は放映後、
日本民間放送連盟賞・特別表彰部門「放送と公共性」で
優秀賞を受賞されましたが、メディアの性質をよく知り、
見極めて、つきあい方をよくよく考えることの重要性、
それは、今回の本でも、TV作品でも、
森さんがその身を呈しながら教えてくれる大切なことです。
もっといえば、メディアの使いかたをひとつ間違えれば、
人を殺し、殺されることすらある、ということの
現実性についても、本を読んでいただければ納得します。

ところで、森さんの本の出版を記念して、
12月15日、16日の両日、それぞれ、
重松清さん、倉田真由美さんとのトークが行われます。
15日は森さんのお仕事に重松さんが迫り、
また、16日はフルで幻の受賞作品を
観ていただけることにもなっています。貴重です!
みなさん、「パン!セ」イベントについてご参照のうえ、
ぜひぜひお越しくださいませ!

(編集担当・清水 檀)





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