SHIRU
まっ白いカミ。

9枚目はレポート用紙にぎっしりの論文であった。

第1回:「ネーミング論」

 

ネーミングはどうしてか大切です。

「シャワートイレ」じゃ売れなかったあれも
「ウォッシュレット」だとヒット商品に。

懐かしフランチェスカ
アルカリイオン飲料
最近はウォーターチャージ。

アイソトニック飲料
イオンサプライ
リフレッシュメント・ウォーター

(…なんか出世魚みたい。)

ともかくその
「ポカリ・スエット」
英語圏では
そのまんまの名前じゃ嫌がられたそうです。

>sweat [swe^t]
>1.汗
>2.水蒸気、水滴。
              (研究社中辞典より)

ということで。
なんだか「色々な想像」をさせてしまって
飲むのに抵抗があったらしいのです。

私は原語の意味をしらないので
汗くさそうな名前だろうと
爽やかに飲んでいました。

 

さて。

ともかく外国語だとカッコイイ!
という効果があるようで…

(日本にのみ見られる現象なのか
 民族の混淆具合や大戦の結果と比較してみるとか
 そこらへんは色々と研究途上であります。)

そこらのアパートに
メゾン・ド・ほにゃららとか
とうみても本宅にヴィラと入っていたり
歌詞の途中にだって
ちょっぴりイングリッシュ入れたりします。

そして外国語…というのにも
しきたりやルールがあって
なんでも良いというわけでもないのです。

やっぱり英語、フランス語あたりが人気。
誰が使っているのか、ラテン語なども使われるのですが
どうも中央アジアの周辺は人気が薄いようです。

 

うちの車は「カムリ」と言います。

トヨタの人は
「"至高の光"…という意味なんです。」
と言っていました。

なら日本語でゆえ。…と思った所で
そりゃ、宗教がかってくるだけです。

「至高の光'98年度モデル…ええ、取り扱っております!」
「試しにのってみますか? 乗り心地いいですよこの至高の光。」

「最近、至高の光の塗装に傷がついちゃって。」
…こわいって。

 

「ニキリブンダマ!」

これはケムリ族の言葉では
「川に咲く花」という意味なんですが…
これを名前につけた某社の芳香剤は売れず

「ブルーレッツおくだけ」
に改めたら大ヒットしたとか。

(ちなみにこれは今作った話です。ごめんなさい。)

 

外国語とは逆に情緒的言語…という手もあります。

「渋谷すうぷ屋」店長さん。
きっと 「ブラウンマッシュルームスープ」
…だけじゃものたりなかったのでしょう。

「白夜に浮かぶ不思議アイランド」

…このロマンティックなネーミングを
口に出来る(お、ダブルミーニング)
カップルしかうちには来るない。べらぼうめ!
そういう事ですか、そうなんですね、コンチクショウ。

結婚式のコース名や観光地のお土産は
どうしてか雅でポエミーなネーミングばかりです。

「葡萄物語」

…イソップかお前。

 

それででございます。

かといって本なんてタイトルがカッコイイものから
つい買ってしまいますから
多少はカッコもつけてもらわないと困るのです。

「ノルウェイ製の家具」 ぐらいならまだしも
「不幸のビデオ、怖い話」、「不幸のビデオ・2」
とかはイヤじゃないですか。本棚に並べるにも。

「愛と幻想のファシズム」
「存在の耐えられない軽さ」
「純粋理性批判」
「ロンメル進軍」
「風葬の教室」
「ジャッカルの日」
「幼年期の終わり」
…カッコイイです。本棚も見栄えがしてきます。

 

開発者は研究室で孤独なのでしょうか。

どうしてかすぐ擬人化してみたり
駄洒落をいってばかりの気がします。

「つっぱりくん」
「カグスベール」

それとも一流の科学者やプログラマーは
ネーミングセンスなどでは
一般の基準からちょっとばかり
外れた趣味をしているのかも知れません。

「FD-R54」といった
無味乾燥な開発番号を取ったとたん
異才マッドサイエンティストは
つい言ってしまうのです。

「佐藤クン!(助手)
    ついに"セガノビール"が完成だっ。」

 

名は体を表す?

「デポドン」
…とか。

私はなんか可愛らしい怪獣を想像しました。
ポケモンの新キャラのように。みた事ありませんけれど。

「ビックライト」
「スモールライト」
「どくさいスイッチ」

でも分かりやすいのはいいことです。

ルールに反対して
車の名前が「ヨクハシール」だったり
人工臓器が「カンゾウくん」だったり
地震対策グッズが「重力への楚痛」だったり
…抵抗してみたところで
世の中はわかりにくくなってしまいます。

だからってどうしたらいいんでしょう。
もう何とか名前をつけないと
私達は落ちつかないのです。

 

例:

質問者A:
「ぼくの家では、妹をバットで殴りつけたりすると
夜中に皿が飛んだり窓ガラスが割れたりするのですが。
これってどうしたというのでしょう?」

回答者B:
「それは妹さんの負の思念力が生み出したエスパー能力。
んーまぁ。ポルターガイスト現象のようなもの。…と
いっていいでしょうね。」

質問者A:
「そうですか。ポルターガイスト現象のようなものでしたか!
これで正体がわかって安心しました!」

ほら。名前がつくとなんだか安心
なのです。

 

・「私の母なんですが、最近どうも机の回りをぐるぐると…」
・そういう病気です。

・「どうやらかくれて他の男と…」
・本能です。

・「もしもし109番? 隣の家でいま火事が…」
・プラズマです。

ほらほらほら。
世界はいろいろな名前の
本能や病気やプラズマや遺伝子に満ちています。
どうしよう、どうしよう。

 

・あなたの名前はなんといいますか?
 にゃんにゃんにゃにゃにゃん。

・誰がつけてくれましたか?
 わんわんわわん。

・縁起は良いのですか?
 モーモーモモー。

・画数少ないと試験の時に楽ですか?
 メエメエメエメメエ。

・他の名前に出来るならどんな名前が良いですか?
 ワニワニワワニ。

そんなことはどうでもいいでしょう。
そんなどうでもいいことなのに。

「ネーミングどうしてか40%ぐらい占めている論」

これにておしまい。
おつかれさま。チャオ!

 

シル (shylph@ma4.justnet.ne.jp)

from 『深夜特急ヒンデンブルク号』

1999-02-10-WED

BACK
戻る