SHIRU
まっ白いカミ。

31枚目:「地球観察日誌」

 

地球歴1999年3月30日。曇りのち雨。

気温の低い日であった。
私は地球の書物を研究して帰路についた。
電動車両を利用して移動。
相向かいには2体の若い地球人(雄)が座っていた。

耳に巨大な金属片を埋め込んで
地球人の皮膚の柔らかさを
無防備にさらけ出している。

虚脱しているものと油断していれば
一方が突如、発声。

「ちゃ、まじかよー、あめふってきたよ。
ちょうむかつくー。ふざけんなよ。」

−訳・解析−
本当かよ、(疑問)
雨降ってきたよ(事実)
超(強意)むかつく(心境[怒り])
ふざけんなよ。(心境 [怒り]) → 【対象】地球の天候

間髪入れず
2体目も発声。

「まじ? しんじらんねー。むかつくー。」

−訳・解析−
本当?(疑問)
信じられない(否定)
むかつく(心境 [怒り]) → 【対象】地球の天候 若しくは 相方

単体で行動時にこのような発声行為は
通常みられない事から双方の個体間での
コミュニケーション行為と思われる。

(それにしても
 2人目の相方に対する信頼が
 殆ど皆無のようなのが疑問だ。)

地球では天候操作は行われていない。
両個体共に降水現象を認めようとしないのは、
もしかしたらこの時期・地域の降水現象は
非常に珍しい事であるのかもしれない。

#至急データとの照合を求む#

また会話から察するに2体の心理状態は
降水現象によって大変荒んでおり
地球人は雨が降ると攻撃的になる事が分かった。
しかし同駅にて降車した老個体に対して
引き続き調査観察を続けたところ
そのような荒廃ぶりはみられなかった。

数十サンプルの比較調査によると
要因は多義にわたり、降水や年齢より
むしろ「かさ」と呼ばれる器具を携帯しているかの
有無が影響を与えているようである。

「かさ」とはメサポの花に似ている。
棒状の握り手に花弁状に薄い膜が貼られたもので
携帯時は閉じる事が可能になっている。
これを雨の落下方向に対して垂直に開き
体を花弁の下に入るようにして使用する。

前回、晴天時の報告書で
同様の器具を電車発着場にて振り回し
「ナイスショット」 と発声する個体例を報告した。
言語体系が異なるものの
ニホン地区の言語訳では 「見事な射撃」であり
地球人の使用する武器であろうと
推測して第二種警戒体制で注目していたが訂正する。
これは「かさ」と呼ばれる器具であり
使用用途は以上のように降水対策であった。

どうやらこれらの事柄から推測するに
地球人は水に触れる事を極端に嫌悪し
また水に触れると凶暴になるという特質を
持つ生物のようである。

以上、侵攻時の参考にされたし。

シルチョフ調査員。

 

 

 

シル (shylph@ma4.justnet.ne.jp)

from 『深夜特急ヒンデンブルク号』

1999-04-15-THU

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