SHIRU
まっ白いカミ。

32枚目:「ちがいがわかる。」


おしまいやす。
おうちとこのぼんぼん、
よう勉強でけてよろしおすなあ!
…マイブームは京言葉。
こっきり、シルチョフどす。

ピラミッドが教室になってる学校でも
ツツジ咲き乱れる中で新学期は始まり
私は一足早い五月病を迎えてます。

「周囲はまるごと初めまして」。
そんなフレッシュマン。
和訳するなら新鮮人間な
新入生・新社会人の方々は
この時期の最初の立ち振る舞い如何で
「あいつはこういう奴だ」。
というイメージが持たれてしまって
そのキャラを演じているうちに
それが自分の性格になってきたりもするので大変です。

ある程度の年齢になって
交友関係の拠点が分散してくると
極端に別人にもなりにくく
それなりに固まってはきますけれど…
半径2、3キロが全世界。
そんな小学生の頃の性格なんて
最初の友達やクラス分け、席順次第で
決まっているような気さえします。
こわいですね。

ここは「無理なく続けられるキャラクター」を
バシッと印象づけるべく、おきばりやす。

 

ええと、それで今さっき (深夜3時)
挽いてもらってきたコーヒー豆が切れたので
生協のコーヒー豆を開けて飲んでいました。
しかし困った事に、このレギュラーコーヒーより
ネスカフェゴールドの方が美味しいのです。
どうやら私は上質を知る男…。だばだば。

そんな「違いが分かる」で考えました。
以下。最近、読んだ本にあった面白い文章です。

-ホフマン菓子メーカーのラジオCM-

「(老人の声)世界中で一番おいしいキャンディーは、ホフマンが作っているものではありません。私の作っているのが、一番おいしいのです。そのかわり、私の作るキャンディーは一つ一つが手作りですから、たいへんお金と時間がかかる。この仕事を始めてから、たったの三個しか作っていないのですから。ええ、一九二六年以来、たったの三個です。もし、わたしの 作ったキャンディをお求めでしたら、まず二万ドルは用意していただきたい。その代わり、これ以上にいいキャンディは、世界中のどこにもありません。でも、みなさんが一〇セントでキャンディ・バーをお求めならば、ホフマンのキャンディがいいと思いますよ」

(天野祐吉 「広告の本」 ちくま文庫より)


手作り風といくら言ったところで
工場で機械が作ってるお菓子。
…そんな冷静な批評眼が効いていながら
かえって正直さと品質の良さがアピールされて
宣伝になっている。面白いCMだと思いました。

ここで本筋とは外れて考えたことが…
自分でもよく分からなくて
まとめられる自信が無いのですが
「違いがわかるって幸せな事なのか?」
という事なんです。

どっちがどうとは言わないけれど
UCCとネスカフェの違いがわかって
細目で鼻くんくんするぐらいならともかく
サントス・ピーベリーとトラジャ・カロシの
(どっちも珈琲豆の種類)違いがわかる人とか。
それってお金はかかるし、入手も手間だし…
「天然物はやっぱり違うね!」とは言いますけど
イミテーションで十分満足してわからないなら
そっちの方がそれはそれで良いんじゃないか?
と、思うのです。

たとえば美術の世界だと
贋作騒動というのがしばしばおこります。
そして実際に美術館に盗難対策の贋作が置かれていても
私は絶対に気付かない自信があるのです。
時に優秀な贋作は科学鑑定に持ち込まれて
顔料の年代分析までされて決着がつけられます。
でも私達は絵の具の新旧じゃなくて、絵を見ているのです。
こうなってくると「どうせ嘘なら死ぬまで騙して」。
の世界です、もう。

本物との違いがわからなくて
たとえ偽物に感動してたって
感動まで偽物とは言えない。

それどころか
「ほんとうはもっといいもの」と
知っていながら目をつむっている事もあるし
妥協というと言葉が悪いですけれど
「まあこんなものか」
2万ドルもしないキャンディーや
不出来なリトグラフで
数多くの折り合いをつけています。
もっと良い言葉でいうなら
「そこにあるものでまんぞくする」

でも…何か釈然としなくて。
何十年もキャンディを作り続けて
世界中で私のが一番だと言い切るこの爺ちゃんに
私は好感を抱いているのです…。

おやすみやす。(5時)

 

シル (shylph@ma4.justnet.ne.jp)

from 『深夜特急ヒンデンブルク号』

1999-04-21-WED

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