SHIRU
まっ白いカミ。

43枚目: 「手書きじゃないと心は伝わらない。」

 

冷たい塩水の中に浮いた銀色の容器は
太陽色の果汁で満たされる。
わずか8分でポプシクルはできあがって
僕たちは冷たいアイスキャンディーを配られる。

僕は人類の英知の偉大さを口に含みながら
人間なるだけゴロゴロしていたほうがいいやという
持論を確信していた。
息せき切って走るより車に乗った方が
心頭滅却するよりクーラーを入れた方が
早起きして拳法を練習するより銃で殺した方が
らくちんなのだ。

そのうち、あわててて食べても
こめかみが痛くならないアイスキャンディーを
人類は手に入れる。

メールをチェックチェックチェック。
郵便受けを1日に何度も見に行く
うら若き乙女じゃあるまいに。
届いているのはネズミ講メールばかりで
八つ当たりで破けないデジタルもデジタルだと思う。
メールを待たずに電話をすればいいとも思うけれど。

桜桃忌だったし。自殺が増えていると聞くわりに
最近、山手線があまり止まらない。
いつの間にやらJR東日本は飛び込んだ人を
ダイレクトで回収&掃除をしながら走る新車両を
開発したんじゃないだろうか。

三越美術館で入場制限付きでダリを観て
御苑横の遊歩道を散歩した。
耳からウォークマンの電線が垂れたお兄ちゃんが
腰紐に犬を4匹も連れてランニング。
1匹の犬がスキップしているみたいで
犬がスキップするのか気になって
僕もついてってみると
その犬はビッコをひいていた。

怪我をしてても、紐に縛られてても
御主人様と一緒に散歩ができるのが幸せそうで
尻尾をちぎれそうにぶんぶん振っては
足下にまとわりついて走ってる。
少し羨ましくて、でも相手は犬だぞと
たしなめる冷静な自分もあって。

夕御飯はカレーを食べに行く約束だったから
冷房の効きすぎた喫茶店で
時間までグレートギャッツビーを読んで潰した。
貧乏な青年はお金持ちの女の人と結婚できない
そんな不当さについて書いた小説だろうか。

体が冷えながら飲む熱いコーヒーは美味しくて
僕はいいかげん何か悪い事がしたくてたまらなくなり
トイレでペーパーロールをそのまま流してみた。
それは あまり冴えたアイデアでは無かったし
トイレから出てからというもの
店員さんがみんな怒ってる気がして
とても本なんて読み続けられずに退散した。

ダブルエスプレッソ、630円。
こんな事ばかりしていたら
いつか犬の尻尾がちぎれる。
犬って一生に喜べる最大量が決まっていて
限界がくると尻尾が落ちちゃうのだ。

 

イラスト:Brownie o. chocolate 19740729
日記:シルチョフ

shylph@ma4.justnet.ne.jp

1999-06-25-FRI

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