SHIRU
まっ白いカミ。

99枚目:「疑惑生産工場

 

「せんせー。裏切るって?」

「何かを信じさせることかしら。」

「信じるって?」

「確認を怠ること。」

「せんせー、しせーかつでやなコトでもあったの?」

「ないわよっ。」

「あの工場は雲を作る工場だってシル君が言うんだけどホント?」

「そんなの嘘に決まってるでしょ、まあくん。
 あの煙を吸うと喉が真っ赤に腫れあがっちゃうんだから。」

「ほんと?証拠は?」

「まったく。どこでそういう下品な言葉遣いを覚えるのかしら…。
 ほら、いいからはやくバスを降りなさい。」

「じゃあ、雲の工場があったら採算はとれると思う?」

「日陰の欲しいアフリカ人とかが買うかもね。」

「でも貧乏なんでしょ?アフリカって。」

「大体はそうよ。だからほら、バスを降りてってば!」

「ねえ、あの工場は何をつくってるの?」

「にせものの地雷よ。」

「なんでにせものなの?」

「もしただの雲じゃなくって雨雲だったら、高く売れるかなあ。」

「いつまでも馬鹿なことばっかいってないの。」

「だからー。なんでにせものなのってばー。」

「ちゃんと見学すればわかるから、まっててね。」
 ほら、ちゃんと一列にならんで!」

「よい子のみなさん。にせもの地雷工場へようこそ。」

「工場長。今年も新入生、40人全員連れてきました」

「お役目、ご苦労さまです。」

「おじさーん。どうしてにせものなのー?」

「お、おじさん…。まだお兄さんは32歳なんだけどな。
 いい質問だね。それは本物より安上がりだからなんだ。」

「だって、にせものなんでしょ。」

「そのとおり。だから爆発はしないんだ。」

「じゃあ役立たずじゃん。」

「ところがどっこい。えっと君…名前は?
 よし、まあくん。ちっとこれを踏んでみて。 」

「…。」

「さあ。ほんものかにせものかは踏んでみてもわからないぞう。」

「ほんものだったら死ぬの?」

「即死さ。しかも踏んだ後に一歩動かないとわからないんだ。」

「厄介だね。」

「厄介だよ。ほらどうする。」

「にせものなんでしょ。」

「どーだろうなー。たぶん、にせものだったとは思うんだけどね…。」

「ちょっと、おじさん!」

「にせものとたぶんわかっていながら踏んだら動けないんだ。」

「さいてーの兵器だね。」

「おいおい。まあくん、お兄さんはここで働いてるんだよ。」

「なんでこんな事するのさ、おじさん。」

「仕事だからね。どんどん地雷は出荷されてくよ。
 この工場は世界シェア第1位なんだ。」

「どうしてこんなもの作ってるのさ!」

「べつに気にしなければいいじゃないか。」

「だってほんものだったら死んじゃうんでしょ。」

「その時はその時。それはにせものだから大丈夫。」

「ほんとだね?」

「うーん。めいびー。」

「さいてーだよ…。」

 

シル shylph@ma4.justnet.ne.jp

from 『深夜特急ヒンデンブルク号』

1999-11-25-THU

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