109枚目:「星への手紙」
このたびロマンとかあって、宇宙に手紙を送る事になった。
まず大統領が長々と自分の功績と
妻と子への感謝を書き綴った。
(権力者とはそういうものさ…)
と思いながら残ったスペースに科学者は
学術的興味に駆られた質問をいくつか。
画家は雪解けの湖と畔に咲く鈴蘭を描き
詩人は羽根のような言葉で人の心の美しさを綴った。
ソプラノ歌手は彼女のコレペティトゥアと共に
アリアを歌うとウォ−クマンと一緒に
オレンジ色の封筒にテープを詰め込んだ。
コックは「料理は冷めてしまいますから…
よかったらお腹を空かせて遊びに来てください。」
と簡単な葉書においしそうな写真。
そしてその銀色のロケットは地球とだいたい一緒で
少しだけ文明の進んだある星に届いた。
手紙は3人のさえない男が拾った。
交番に届けることもなくカプセルをあけた3人は
手紙を読むなり(読めたんだよ、ともかく。)
友人、知人から借金をしてまでやってきた。
そして何を食べてもエスニック気分でお腹一杯になると
口々に愚痴り始めたのだった。
「手紙にはギヤムの事なんて書いて無かったじゃないか!」
「ロクシュミの事なんて書いて無かったぞ。」
「どうしてミュラックがここに…。」
3人が口を揃えて言うことには
「地球はもっと素敵なところだと思ったのに!」
たとえばギヤムは戦争。
ロクシュミは毒ガス室。
ミュラックは嫉妬。
それらはぜんぶ手紙には書かれてなかったこと。
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