SHIRU
まっ白いカミ。

「密航のトレンドと21世紀への展望について。」

 

シルチョフ・ムサボリスキー

 近年、輸送船に隠れて密入国をたくらむ密航者の数は横這いとなっている一方で、密入国の心得を知らぬまま船に乗り込んだ若者がひもじい思いをするという事件が増加の一途にある事は見逃せない。

 たとえば先日。バナナ船に隠れて密航しているところを神奈川県警に保護されたケラリーノ少年の例などは実に象徴的なケースと思われる。「バナナなら甘いし、栄養もあるし、何よりむきやすいし、長旅にはいいと思ったのさ。」と彼はそのやつれた口で語ったが、輸入する段階ではバナナはまだ緑色で甘くない事を知らなかったのだ。可哀想に。

 こうした一面的な判断に流され、こらえ性のない若者による刹那的密航が増えつつある背景には、ひとつは義務教育レベルの低下による密航教育カリキュラムのずさんさがあり、またハンバーガー世代の彼らには根本的な商品知識さえ身につけずに育っているという現実が見受けられるのである。

 そもそも密航とは隠れている間の寝心地のよさと、栄養の確保という2つの視点でもって、乗り込む輸送船を選別するところからはじまる。「密航は積荷8割、我慢2割。」とはよく言われる事である。

 麻薬、トウガラシや核廃棄物、電子機器、重油の類はいうに及ばず、パイナップルなどもちくちくして初心者には薦められない。大体、舌がざらざらしてしまう。カリフラワーなどは寝心地という視点から考えると優秀だが、味と栄養の点では残念ながら平均以下であろう。また「寝心地の王様」と密航通のうそぶくしいたけに至っては、確かに天然のベッドというに相応しい寝心地ではあるが、それを囓り続けて旅をする辛苦は想像するに余りある。

 一見、ごつごつしてみえるグレープフルーツなど、ビタミンと水分が豊富、しかもワックスで新天地に着く頃には肌がつやつやになるという噂が女性密航者の間で流れて、昨年から口コミで大ブレイク。柑橘系の評価は軒並み急上昇中である。また洋酒、ワイン、チョコレートなど密航を心楽しくさせる積み荷への人気は根強いが、ライト思考でハードリカーは倦厭される昨今の風潮を考えると、徐々にこれからは、堕落的密航へのロマンスはモティベーションとして流行らなくなるであろう事態が予測される。

 このような基本的密航知識の早急なデータベース化、そして後に続く新しい世代への共有。新商品に対するインタラクティブな情報交換ネットワークの設計。遺伝子組み替え作物の安全性の検証。今、21世紀にむかって密航界に課せられた緊要な課題は山積しており、この解決なくしては密航界のトップリーダーとしての我々の地位もまたないであろう事を私はここに訴えるものとして、このレポートをガラス瓶に詰めて海にちゃぽんと流す。チャオ!

 

2000-02-17-THU

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