131枚目:「雨の日の老婆」
こないだの事。
その日は朝から2月らしく寒い日で
夕方には小雨まで降ってきて…
私はおもたいパルコブックセンターの袋を片手に
いつもかばんに入れてある折り畳み傘を広げて
駅から帰宅しようとしていました。
白い息をかじかむ手先にはーっとやったりして
とぼとぼ家にむかって歩いていると
前をおばあさんが
頭からスーパーの袋をかぶって歩いていました。
白髪混じりの後頭部には
霧吹きで水をかけたように雨が滴っていて…
あまりにそれが寒そうなので私は
「傘をどうぞ。」と
おばあさんに後ろから寄って
話しかけたりしましたが反応はなし。
駅から家までは大通り1本。
そのままなんとなく
おばあさんの後ろから傘をさすような感じで
てくてくと一緒に歩くことになりました。
すると何を考えたか、ぷいっと。
おばあさんが路地に消えていきました。
まあ…ここらが家だったのかな。と思い。
顔もみられなかったし。お礼の言葉もないけど
ま、いっか。と私は家まで歩きます。
そして帰宅。
ドアの鍵をあけようとすると
家の中で電話が鳴り続けています。
私が靴をほうりだすようにして入って
受話器をとると一声。
「誰も傘に入れてくれ、言ってない。」
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