145枚目:『カステーリャ建国史』
僕らは幼い子供だった。
皆、やせこけて広場で遊んでいた。
それは遊びとはいえない遊びだった。
施政者に命じられた労働としての遊技は
途方もなく長い時間、終わりを迎えなかった。
壊れやすい玩具はてきぱきと壊されてしまった。
国には丈夫な玩具を作れる職人はもういなかった。
僕らは学舎を十四の歳には逃走して
次々と盗賊や贋作屋になっていった。
おがくずを詰め込んだ生卵。
洗濯機から流れ出た泡立つクリーム。
がらくたばかりで育った僕らの胃はもう
スチロールやポリプロピレンしかうけつけなかった。
夢は既に色褪せてモノクロから暗闇になっていた。
食事は心臓を動かすため。睡眠は頭を休めるため。
僕らがその頃、寝床にしていたのは
野良猫が住み着いて廃墟と化した
アイスクリーム工場だった。
昔、それを建造した施政者は
同じ建物を二度と誰も造れないように
建造に関係した技師の腕をすべて切り落とし
資料はすべて煙と灰とにしてしまったのだった。
甘いものを知らないまま
甘いものに飢えた子供たちは
広場で緑の帽子の男が配る人工甘味料に手をだし
次々と中毒になって気絶して倒れた。
たび重なる気絶と中毒の繰り返しは
僕らの残された感覚を摩滅させ
贋作と窃盗の繰り返しの中で
国中の絵は傷み、破けていたし
また国中の牛もすべて死に絶えていた。
新しい子供は長らく生まれず
他人の子供を盗みあい
子供が弱って死んでいくたび
本物の子供の価格は高騰していった。
僕らに残された売れるものは
蝕まれたこの体だけだった。
相場の値上がった時に
くじ引きで仲間1人を売り払って
まだ走れる自転車を1台買うことができた。
知識を探しにいくのだった。
戦火をまぬがれた教科書、絵本、チラシ…
なんでもよかった。
夢の暗闇に響く警鐘は
夜を重ねるたびに小さくなっていた。
僕らは交代で休むことなく自転車を漕ぎつづけた。
それは労働で、遊びで、戦いだった。
やがて自転車のチェーンがちぎれて
すべてに疲れ果てた僕らは
山村の崩れた教会の地下に隠れて眠って
久しぶりに色のついた夢をみた。
それは暖かそうな部屋だった。
膝に毛布をかけた老婆が
老眼鏡をかけて光る画面から
なにやら1枚のレシピを書き写していた。
赤い服を着た孫娘がやってきて
おばあちゃんに抱きついた。
目覚めると地下貯蔵庫の
敷石の隙間には小麦の穂が落ちていた。
教会の裏庭にはリンゴの木が生えていて
蜜たっぷりの白い花が咲いていた。
そして僕らが教会の前庭に立つと
空から白く輝く鳥が舞い降りてきた。
それは卵を産める生きた鶏だった。
僕らは夢の記憶をたぐり寄せて
カステラケーキを焼くことにした。
|