SHIRU
まっ白いカミ。

【地区Mからの脱出】

全ての道の標識は取り払われて
僕は記憶の中を歩いた。
薄れゆく記憶に歩ける範囲は次第と狭まり
気がつけば歩いていたのは地区Mだった。
過去に閉じこめられた思い出と走り去る時間が交錯する。
そこは時間の流れが停止した地区だった。
時計屋が時計の分解掃除をするためにやってくる他は
訪れる観光客もいない静寂に囚われた地区。
許可される行動はスキップとリピートだけに限られ
再生業者の95%がこの地区に集中して営業して
住人は楽しかったひとときを再生しつづける地区。
いま話したことは本当にいま話したのか
考えたことはその瞬間に風化してわからなくなり
時間の流れは小路と小路との間を永遠に漂っている。
地区Mに迷いこんでしまった僕は
その日の出来事を日記帳がわりに白い犬に話してきかせ
明日することは気まぐれな子猫に任せてみることにした。

 

絵・Kohji-3200 文・シルチョフ

2000-07-05-WED

BACK
戻る