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いままでの記事 2006/03/10  
 
第2回「プロになるといいよ」の裏に。
岡田 そもそも、ぼくは今回、最初は
プロにならなきゃダメだ、
というような本を書いてたんです。
糸井 それは、『プチクリ』の逆だ!
岡田 そうなんですよ(笑)。
去年、『プチクリ』を
書きはじめたのとほとんど同じ時期に
大学で教えはじめて
学生と話をする機会が増えたんです。

大学生は、みんなプロになりたがっていました。
ぼくは少なくとも、
みんながそう思っているんだったら
彼らがプロになれる可能性を
1%でも上げることが
ぼくの仕事だ、というふうに思っていました。

でも、芸術系の大学って、
それをやらないんです。
学生がなりたいことに近づくために、ではなく、
先生が教えたいことを教えてるように
見えたんです。
糸井 うん、うん。
岡田 そういう考えが
嫌で嫌でしょうがなかったので、
「自分だけは」と思って、講義をしていたんです。

でも、ぼくの講義を受けた学生が
「自分もプロになれるかもしれない」と
思ったとしても、
その勇気や元気は、
ぼくの講義を受けたあとしばらくしか
もたないんです。
「課題が思いどおりにできなかった」とか
そういうことでくじけしまって、
逆に、余計なプレッシャーになってしまう。

もしかして、ぼくが学生に
「プロになれる」と言っているのは、
「ならなきゃダメだ!!」と言っているのと
同じなんじゃないだろうか。
そのあたりの構図が、2ヶ月くらい教えてから
ようやく見えてきたんです。

あらゆるノウハウは、
本屋どころか、ネットにあるというのに、
著者は自分なりの人生経験を織り込んで、
自分の考えを「カラオケ」してる場合じゃないな
と思ったんです。

「プロになりたい人はプロになりましょうよ」
「プロになったら、すっごいこと、
 いっぱいあるよ」
ということを本にしたかったのに、
「プロだけが解答じゃないよ」
「それよりは、『表現』するほうがいいよ」
に、途中から変わっていった。
これはまさしく『ぼくたちの洗脳社会2』で
書こうとしてたことだったんです。
糸井 そうでしたか。
岡田 あの‥‥人というのは‥‥、
変な話なんですけども(笑)、
1万年くらい前に、人類は、
人間であることをやめたんだと、
ぼくは思ってるんです。
文明とか価値観みたいなものが
ぼくたちの上位概念として存在していて、
そいつらが本能を持ってるんじゃないか、と。

ぼくたち個人には
もう、生存本能がなくて、
その「概念」に本能がある。
そいつらが生き延びていこうとしてるのであって、
ぼくらはその「参加者」みたいな
ものなんじゃないかなと思うんです。
そうじゃなかったら、
自分の信じてるものや守るもののために
人は死んだりできないはずです。

『ぼくたちの洗脳社会』を書いたあとに、
ぼくが『洗脳社会2』を書くとしたら、
きっとこんなことを書くんだろうな、と
思っていました。
でも、これって、あきらかに
トンデモ本になるでしょう(笑)。
糸井 うん、うん。
でも、その下部にいるぼくたちにも、
幸せはあるんですよね?
岡田 そうです。個々のぼくらの幸せは
それとは関係ないはずです。
だって、封建社会でも専制君主でも民主主義でも、
個々の人の幸せは、それとは別ですから。

個々のぼくらは、
「何かを受け取って発表するため」の
存在なのかもしれない。
だから人生には意味があるんだと
ぼくは思うんですよ。
でないと、家の前を毎日掃いてるおばあちゃんの
生きてる意味が、見つけられないんです。
おばあちゃんは、家の前で毎日掃くことを
人に見せることによって、
「あ、おばあちゃんが掃いてる」とか、
「昔の人は家の前を掃いてたもんだな」とか、
「年取って家の前ひとりで掃くのは嫌だな」とか、
人に何かの感想を与えるために存在している。
そうやって、個別の価値観や行動を動かすために
個々の人間はあるんだよな、
ではその実践編、
ということで書いたのが、この『プチクリ』です。
糸井 なるほど。
みんなが洗脳し合うことが
生きることである、
ということですよね?
岡田 そうです。
評価されていることがないと
満足できないと思うんです。
どんなに、売れなくてもいい、
自分が好きな絵を描けるだけでいい、
という絵描きでも
いちばん必死になるときは、
個展をするときだから(笑)。
見せないと連鎖がまわらない。
糸井 自分の演技プランが誰かを変えて、
そこに渦巻くドラマを変えていく。
そして、どんな影響をいくつ与えたかという
模様が描かれていくんですね。
洗脳をクリエイティブだと考えると、
みんながそれぞれに人を洗脳する力を持つために、
何かを作ってくということになる。
本を買う、というのも、
その模様のひとつとなるわけですね。
岡田 はい。ものを買うということは表現ですから。
読んで感想を持つだけじゃなくて、
それを人に言って、
「こういう考え方を広める遊び」を
みんなでしましょう、
ということを提案したかったんです。
糸井 ゲームデザインしてあっても、
買ってもらえないと
模様を描けないですもんね。
そのしくみは、岡田さんの、いわば
ファンタジーなんでしょうね。
岡田 そうですね。
ぼくの中では、
世の中の実像や在りようよりも、
ぼくにとってこう見える、というほうが
どうしても大きいんです。
糸井 岡田さんは窓口を作る、みんなが列を作る。
列が整然とできていて、
システマティックに連鎖反応が起きるという
イメージですね。
岡田さんは、そういう歌を歌っているんだなぁ。
岡田 ものすごく納得できる(笑)。
そう、そうです。歌です。
(つづきます!)
 
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