PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙3 「ERについて」

こんにちは。
今日はERについて。

ジョージ・クルーニ−が今シリーズ途中で
遠くへ引っ越していってやめちゃいましたが、
ドラマの「ER」、こちらでもやっぱり人気です。

ドラマの中でみんなが交わしている言葉は、
結構そのまま現場で使われている略称だったりして、
耳慣れないもの(というかわかんないもの)が
多いのですが、
それが却って臨場感を醸し出しているんだそうです。

救急隊員がストレッチャーを押しながら
ERに凄い勢いで入ってきて、
スタッフに手短に患者さんのことを伝えるシーンなどは、
日本にいるときはなるほどそう言えばいいのか、
参考になるなあと思っていましたが、
今は家に帰ってまで病院の話だと疲れちゃうので、
みてません。

さて、わたしもローテーションの一環でERで働きました。
救急科の人たちと一緒に、
急患室を訪れる患者さんを診察します。

日本で働いていたときには、夜間救急の時間に
「なんで、今?」と思うような、
4日前から続いてるのどの痛みとか、
3年前から悩んでる腰痛などを訴えて
病院に来る人がいました。
からだの具合が悪いのはわかるのですが、
そんなに緊急事態というわけではなくて、
その晩に来た理由が、
「夜間だと待たずに診てもらえるから」ってことが
ときどきありました。
そういう人はこちらではひどい目に遭います。

夜間や週末に開いている
内科や外科のクリニック(外来)はほとんどないので、
この時間帯に医師に診てもらいたい人は
すべてERに来なければなりません。

救急隊を要請するような、死にそうに具合が悪い人や、
血まみれの人の場合は、そのまま中に入ってもらって
すぐに治療を始めますが、
そうじゃない人は、まず入り口で
トリアージュ、病気の程度の振り分けを受けます。

ここで「軽症」と判断されると広い待合室で、
順番が来るのを延々と待つことになります。

私が働いている病院のERは軽症の人向けの診察室が9室、
重症の人のための診察ベッドが16、7あります。
救急科だけではなくて
さまざまな科のレジデントが忙しく働いているのですが、
何しろ患者さんの数が多いので、時間がかかります。

ある時、診察室に入ると中で待っていた患者さんが
めちゃめちゃ怒っていました。
患者さんの喜怒哀楽の表現が激しいのも
ERの特徴のひとつです。

おそるおそるはなしを聞き始めると、
仕事場に「遅れる」と連絡してからERに来たのに
この時間では遅すぎてもう仕事に行けないらしいのです。

カルテを見るとトリアージュの時間は朝の9時。
わたしが部屋に入ったのは夕方の4時。
そりゃあ怒るのも当然です。

でも、前にもお伝えしたように、
いったん医療機関にやってきて
トリアージュを受けた以上、
診察まで待てずに帰ってしまえば
AMA(Against Medical Advice)、
つまり医師の助言に従わず、無理やり帰ること
になってしまいます。

この国では外来の診察を受ける場合には、
原則として、必ず事前に予約をしなければなりません。
それ以外はER受診となってしまいます。

しかも医療保険がないと高額の医療費を
払わなければなりませんし、
医療保険にもいろんな種類があって、
自分が加入している保険会社が
その医者と契約していなければ
保険給付を受けることが出来ません。

ERは基本的に保険のない人も受け付けるので、
さまざまな理由で医療保険に入れないひとは
待つのを覚悟でERを受診します。

先日ERを腹痛で受診した友達がいたので、
いくら払ったのか聞いてみました。
診察、血の検査とレントゲン写真を撮って
8万円くらいだったそうです。

と、いうわけで
米国へお出かけの際にはくれぐれもお体を大切に。
保険には必ず入ることをお勧めします。

本田美和子

1999-04-27-TUE

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