遙か彼方で働くひとよ。 フィラデルフィアの病院からの手紙。 |
手紙6 「コード・ブルー」 こんにちは。 前回お伝えしたような 患者さんが死にそうな状態になって、 ひとを呼び集める「コード・ブルー」。 仕事仲間の間では、略して「コード」と呼んでます。 千葉県の病院で働いていたときには、全館放送で 「コード・ブルー、どこそこ」 と、デパートの迷子のお知らせのアナウンスみたいに 落ち着いた美しい声の交換台のおねえさんが 呼びかけてくれていました。 それを聞いたひとは、 とりあえずその瞬間に駆け出さなければなりません。 もちろんあんまりたくさんの人がいても、 部屋に入りきらないし、却って邪魔なので 自分がお呼びでないとわかったら、 静かに退散。 今の病院では、全館放送ではなくて コード・ビーパーといって スピーカーのついたポケベルを使っています。 内科では病棟を担当しているチームのうちの2チームが 交代でいつも持ち歩いています。 コードがあると 最初にすごいアラームが鳴って、 それにかぶさるように その場所を何回か繰り返してブチっと切れます。 これで一番困ったのは、 スピーカーの音が割れて聞き取りにくいこと。 この時代に何でこんな戦場で使う無線みたいな 情報伝達をするかなあ、とうんざりです。 とにかくコードが起きてるフロアを確認して 駆け出すのですが、 そのうち同じところを目指す人たちが わらわらと合流するので、おおまかな方向さえ合ってれば 現場へたどりつけます。 集まった人たちがまず確認するのは 「Who runs the code?」 ひとりリーダーを決めて そのひとが全体を仕切ります。 コード・チームには 内科、外科、麻酔科の医者だけではなくて 看護婦、看護士、人工呼吸器専門の技師など いろんな人たちがいますが、 コードを仕切るのはだいたい内科のレジデントです。 医学部を卒業して2、3年のレジデントたちが リーダーシップをとって進めるなんて 不安に思われるかもしれませんが、 そこがACLS(Advanced Cardiac Life Support)の いいところで、 これだけやっとけばとりあえず間違いはない、 というお稽古をみんなやってるわけですから とんでもない方向へ進んでいくことはまずありません。 30分から1時間くらいみんなで一生懸命やって、 患者さんの状態が落ち着けば 集中治療室に移しますし、 運悪く助けることができなければ、 あきらめてコードを終了します。 このやめ時が、スパッとしてるんですよね。 アメリカ人ってドライねえ、としみじみするくらい。 死にそうな患者さんはすべてコードになるのかというと そうではありません。 コード・ステータスと呼ばれる分類で、 フル・コード(蘇生する)にあてはまる 患者さんに対してのみ、積極的な治療を行ないます。 と、いうわけで 次回は蘇生を行なうかどうかの選択についてお伝えします。 みなさまどうぞお元気で。 本田美和子 |
1999-05-23-SUN
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