PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙11 「飛行機2 DVTについて」

こんにちは。
休暇明けで仕事に戻ったときに同僚たちと交わす言葉は
決まりきっています。

「どこ行ったの?」
「日本に帰った。」
「何時間くらい飛ぶの?」
「12時間くらい。食事が2回とおやつ1回。映画3本。」
「やっぱり遠いねえ。DVTになっちゃうよ。
ちゃんと途中で足動かした?」

だいたい話をした人の半分は
冗談交じりに「DVT」について言及しました。
まあ、病気おたくみたいな人たちと
話しているせいもあるでしょうが、
それにしても頻度が高い。

で、今日はそのDVTについて。

DVTというのは略称で、
Deep Venous Thrombosisといいます。
日本語では深部静脈血栓。

おもに下腿の深いところにある静脈の血の巡りが悪くなって
そこに血栓ができてしまうのが原因です。
血栓ができてしまうと、足がむくんだり、
痛みを伴ったりするようになることがあります。

この病気は癌の患者さん、
経口避妊薬を飲んでいる女性など、
血の固まりやすい状態にある人や、
心不全のある人、最近手術を受けた人、
ベッドにじっと寝ている人などに多く見られるのですが、
このほかにも長時間、車や飛行機の座席などで
同じ姿勢を続けることでも起こり得ます。

足のむくみを起こすだけなら、
そう大きな問題にはならないのですが、
困ったことに続きがあるのです。

足にできた血栓は何かの拍子に
そこから離れてしまうことがあります。
静脈を流れる血液に乗って心臓に戻り、
肺へと流れ込みます。

心臓から肺へと続く血管はだんだん細くなっていき、
毛細血管と呼ばれる赤血球が
ようやく1個通れるくらいのところで
運んできた二酸化炭素を酸素と交換して
心臓へ戻り、全身へまた流れて行きます。

血液と一緒に足からやってきた血栓は
心臓を通って、肺に入ったところで、
血管を詰まらせてしまいます。
この状態を肺梗塞(はいこうそく)と呼んでいます。

肺梗塞が起こると、
そこから先の肺の組織は
血液を受け取ることができなくなるので、
体に酸素を取り入れることができなくなって、
突然の呼吸困難、胸の痛みなどが起こります。
アメリカの統計では
年80万人が新しく深部静脈血栓と診断されていて、
毎年25万人が肺梗塞で入院し、
そのうち5万人が亡くなっているそうです。

診断のためには足の超音波検査か血管造影をして、
血栓の有無を調べることと、
肺の血流と換気の状態を
放射性同位元素を使って調べることが必要です。
日本では換気用の放射性同位元素を
常備している施設は少ないので、
肺血流のみの検査になることが多いと思います。

診断がついたら、
これ以上血栓ができないように抗凝固療法といって、
注射と飲み薬での治療を開始します。

なんだか長い説明になってしまいましたが、
このように命にかかわるかもしれない、
DVT。

6月か7月の朝日新聞の健康欄にも
エコノミークラス症候群という名前で紹介されていました。

この夏遠くへご旅行の方、
ときどき機内を歩いたり、足を伸ばしたりして、
ご自愛ください。

では今日はこの辺で。
さようなら。
本田美和子

1999-08-05-THU

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