遙か彼方で働くひとよ。 フィラデルフィアの病院からの手紙。 |
手紙15 「薬について」その1 こんにちは。 今日はお薬について。 からだの具合が悪くなって病院を訪れる方が よくおっしゃるのが、 「何か薬をください」または「点滴してください」。 外来での点滴って、結局は薄い砂糖水か塩水で、 栄養をつけるという観点からは無意味です。 口から水分が補給できているのなら、 ほんとは必要ないんですが、 町の診療所でだだをこねて コップ3、4杯分の塩水を点滴してもらったあとで、 「いやー、体の調子が全然違うねえ」 と満足して帰るお年寄りも少なからずいるので 精神衛生上は役に立っていると いえなくもないのかもしれません。 さて、薬についてですが、 風邪をひいたときですら、医者から処方される薬って 結構いろんな種類があったりしませんか。 熱さまし、咳止め、痰を出やすくする薬、 抗生物質、胃の薬などなど。 で、質問です。 病院の窓口や薬局でもらった薬、 いつも全部飲んでますか? 仕事を始めて間もない頃、上司からこんな話を聞きました。 関東のある大学病院が、 病院の玄関から300メートルくらい離れたところにある バス停までの間にごみ箱を設置していたそうです。 ある時、ごみ箱の中に少なからずの薬袋が 捨てられているのがわかって一斉調査をしたところ、 1日に薬剤部から処方された薬の 5分の1だか4分の1だかが、 病院を出てから5分もたたないうちに 捨てられてしまっていたことがわかりました。 運良く家まで持ち帰ってもらえたとしても、 本当に飲んでもらえているかどうかは、非常に怪しい。 「飲まない薬は効かない」 というのは、医学の原則のひとつです。 次の外来にいらした患者さんが 「やっぱり、まだ調子悪いんですよ。」 とおっしゃれば、 医者は前回の薬が足りなかったか、と思って (薬は全部飲んでもらってると、 決めてかかってますから) 量をふやしたり、新しく加えたりして 処方される薬ははますます増えていきます。 で、ますますかさばるので、さっさと捨てられる。 捨てられてる薬もその価格の7、8割くらいは 保険が負担しているわけですから、 医療経済の立場からも、すごい損失です。 この大学病院は その後どんな対策を講じたと思います? ごみ箱を撤去したんです。 まあ、すごく消極的ではありますが、 とりあえず処方後、少なくとも5分以上は 薬を持ち歩いてもらえるという意味では 解決策といえなくもないですよね。 でも根本的な問題には手がついていません。 いや、もらった薬は全部飲めといってるのではなくって、 処方されている薬が多すぎる。 薬の処方の原則は、 「なるべく少ない種類を、なるべく回数を減らして飲む」 です。 1種類でも1日3回規則正しく 薬を飲みつづけることはとても大変です。 1日1回の薬だって忘れることがあります。 脳代謝賦活剤 (平たくいえば頭の血の巡りを良くするくすり) として長年使われていた薬のひとつが、 実は全然効き目がなかったことが 最近わかって消えて行きましたが、 この薬、長い間 たくさんのお年寄りに処方され続けていたんですよね。 「薬は本当に必要なものだけを処方しろ」 こんなことをここで言ってもしょうがないのですが、 ほんとにそう思います。 では今日はこの辺で。 みなさまどうぞお元気で。 本田美和子 |
1999-09-08-WED
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