PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙18 「 薬について」その4

こんにちは。

前回お伝えしたように、
アレルギーを起こす可能性のある薬については使わない、
というのが大原則です。

でも、病気の重篤さと、
その治療に必要な薬によるアレルギーの症状の程度を
はかりにかけて、少しくらいのアレルギー症状なら
なんとかそれを克服できないだろうか、
と考える場合もあります。

もちろん、重い喘息症状など
命にかかわるようなアレルギーの場合は問題外ですが、
全身に発疹ができる程度(これだって
もちろん良くはないのですが)
のときにはどうにか使えないかなあと考えます。

こちらに来る前に働いていた病院には、
重症の免疫不全の患者さんがたくさんいました。
免疫システムというのは、体の中の兵隊のようなもので、
外から入ってくる細菌やウイルスなどの敵と戦って
体を守っています。

免疫の働きが落ちてくると、
普通の人なら何ともないカビや細菌が
あっという間に体の中で増殖して、
命を落としてしまうことになりかねません。

普通の人には何ともない敵のひとつに
カリニ原虫というのがいます。
これはおそらく空気中にただよっている、
このカリニ原虫を吸いこむことで
重症の免疫不全の患者さんに肺炎を起こし、
その致死率は8割くらいにのぼります。

体内の兵隊の数は特定のリンパ球の数で推定できます。
CD4といわれるこのリンパ球が、200を割ったくらいから
体の免疫の力は急速に衰え始め、カリニ肺炎や、
その他の重篤な感染症を起こし始めます。

いったんかかってしまったら、
救命することは難しいカリニ肺炎ですが
これを予防することはかなりの確率で可能です。
サルファ剤とよばれる、尿路感染症(膀胱炎などのことです)
などによくつかう安価な飲み薬がありますが、
これがカリニ肺炎の予防にはとてもよく効きます。

ほかにもいくつかの薬はあるのですが、
吸入や、注射など手間がかかりますし、
できればサルファ剤を使いたいところです。
でも、このサルファ剤には大きな欠点があります。
副作用。
熱や発疹、人によっては白血球や血小板が減ったり、
肝臓や腎臓にダメージを与えたりしてしまいます。

もちろん臓器や血液に及ぼす副作用は
見逃すわけにはいきませんが、
発疹だけならなんとかできないか。
ということで体を少しずつサルファ剤に慣らしていく
減感作療法というのをその病院では始めていました。

実際のサルファ剤はわたしの親指のつめぐらいの大きさで、
のどにひっかかってのみにくいだろうなあと思うのですが
命には代えられません。

この減感作療法は、ごくごく少量からはじめて
少しずつ量を増やしていき、
その大きな錠剤2錠に到達するのを目的にしています。

薬剤部に相談して、ごく少量から順番に量を増やした
薬の包みを作ってもらいました。
初めて1番目の包みを患者さんと開けたときには
ふたりで笑ってしまいました。
ヨーグルトについてるお砂糖大の顆粒が6粒。
鼻息で飛んでいってしまいそうです。

この6粒から始めて、次第に量を増やしていきます。
途中でやっぱり発疹がでたり熱を出したりすることも
あるのですが、そのときは量を増やさず様子をみたりして、
なんとかゴールにたどり着けるように、
患者さんもがんばります。

こうして少なからずの患者さんが
晴れてゴールに到達して、
安くて、効き目があって、飲みにくいサルファ剤で
こわいカリニ肺炎から身を守っています。

というわけで、
今日は薬のアレルギー反応と戦う患者さんのお話でした。
みなさまどうぞお元気で。

本田美和子

1999-09-19-SUN

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