PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙20 VA

こんにちは。
1年中病院で働いているわたしたちですが、
ホームグラウンドの大学病院だけではなくて
こぢんまりとした病院でのローテーションもあります。

日本でいう、いわゆる大学の関連病院ですが、
そのひとつは隣の州、デラウエアの街
ウィルミントンにあります。
デラウエアといえば、種なしぶどうの
名前だというぐらいしか知りませんでしたが、
ここは人口も少なく、面積も小さな州で、
大きな産業としては、
総合化学メーカーのデュポン社があって、
消費税が課せられません。

フィラデルフィアのあるペンシルバニア州は
本や洋服、食べ物などは無税ですが、
それ以外は7%の消費税がかかるので
大きな買い物のある場合には、
足をのばして出かける人もいます。

その病院は全米に点在する
退役軍人のための病院のひとつで、
Veterans’Administration Hospital、
略してVAと呼ばれています。

アメリカ合衆国のために
兵役に就いていたひとたちが患者さんです。
おそらくほとんどが国からの補助を受けていて、
無料もしくはごく安い料金での医療を提供しています。
患者さんの平均年齢層はもちろん高くって9割以上は男性。

できれば将来は、じいさんばあさん内科医として
働きたいと思っているわたしには
うってつけの場所なのですが、
なかには30代の若い方もいます。

問診を取るときには、どの戦争で働いたかとか、
その当時どんな化学物質や放射能にさらされたか
というのも大事な質問になります。

若い患者さんのなかには湾岸戦争時、
「砂漠の砂嵐作戦」(でしたっけ?)に参戦して、
化学物質への曝露の経験のあるひともいます。

もう少し年齢層が上がると、ベトナム戦争経験者で、
髪の毛をのばして、バンダナ、髭面で、
きっとこの人のみかけは
70年代からほとんど変わっていないんだろうな
と思わせる風貌で車椅子に乗ってたりします。
トム・クルーズが
ベトナム帰りの兵士に扮した映画そのままの雰囲気です。

もちろん第2次世界大戦や、
朝鮮戦争時の退役軍人が大多数なのは
いうまでもありません。
わたしの出身国をたずねて、
「懐かしいねえ」と
沖縄や佐世保、横須賀での
駐留生活を語ってくれるおじいさんたちもいます。

患者さんの病気の種類は、
基本的には普通の病院とは変わらないのですが、
Post Traumatic Stress Disorderと呼ばれる
最近日本でも知られるようになってきた
とても強いストレス状態におかれた人が
あとあとまでそれをひきずる
精神疾患のひとつに苦しむ人が多かったり、
これはここに限ったことではないですが、
アルコールやタバコ、
くすりの依存症のひとがいたりします。

病院のなかはとても質素で、
患者さんの寝巻きやタオル、寝具には
“合衆国政府のものだぞ、持ち出し厳禁”、
とでかでかと書いてあるし
食堂は仕事仲間が口を揃えて最悪と言う品揃えです。

で、この病院は仕事仲間からの評判は
あまりよくありません。
食事のせいもありますが、
なにより遠い。

わたしも病院の中は嫌いじゃないけど、
この距離にはうんざりです。
ハイウエイを車で40分。渋滞するともっとかかります。

というわけで、
次回はつらい長距離通勤についてお伝えします。
今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

1999-10-08-FRI

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