PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙23 サンフランシスコから
    「老人医療保険の試み」その1


こんにちは。

多くの内科のプログラムと同じように
私のいるプログラムも、
自分の病院だけではなく
外部の病院や施設でのローテーションができます。

せっかくの制度なので、頼んでみようかなと
サンフランシスコにいる、知り合いの先生にお願いして
そこの老人科を見せてもらうことにしました。

もちろん私のいるところでも
老人科の研修期間はちゃんと設けてあるのですが、
そこを「非常にアカデミックな研究機関での研修が
今後のわたしの進路にいかに重要か」
というへ理屈をこねて、
プログラムディレクターからお許しをもらいました。

患者の多くが高齢者で、
これまでの病歴がコンピュータのなかに
きちんと保存してあったり、
病院以外にもいろいろな複合施設を
併設している退役軍人病院“VA”は、
老人医療を研究する上でとても良いところです。
カリフォルニア大学の老人科も
メインのオフィスはVAの中にあって
たくさんのひとたちが働いています。

いきなり「見せてください」と頼み込んだわたしも
何とか受け入れてもらえて、時間割をつくってもらい、
そのほかのレジデントやフェローにくっついて
いろいろ見せてもらっていました。

ここでは基礎的な研究や、臨床研究などが
広く行われているのですが、
そのなかのひとつに、
On Lok Senior Healthとよばれる、
地域医療を実践している
HMO(Health Maintenance Organization)
があります。

HMOというのは、個人が契約する健康保険のひとつで、
単純にいえば、ビジネスマンが仕切っていて、
効率よく、医療を産業として利益をあげて
(同時に、患者さんが“できるだけ”
  満足できるようにして)
いくことを目的としています。

日本では、いくつかの種類はありますが、
ともかく、国民皆保険の制度の下
自分の保険証をもっていけば、
基本的にはどこの医療機関でも受診することができます。

アメリカでは、医療機関はそれぞれ個別に
健康保険会社と契約を結んでいて、
自分の行きたい病院や診療所が
自分の加入している保険会社と契約を結んでいなければ
保険給付を受けることはできません。

さらに、契約を結んでいる医療機関であっても
処置によっては保険でカバーされないことも
あったりするなど、その構造はほんとうに複雑で、
わかりにくいです。

これらのHMOに加入すると、
月々安くはない保険料を払い、
病気になったときには
かかった費用に応じて保険金が支払われます。
この制度はfee-for-serviceシステムとよばれるもので
高額な医療行為が続くと、
経済的に破綻をきたす可能性があったり、
ある程度高額になった場合には
保険給付が打ち切られたりすることになります。

病気になった人に対する治療の給付ではなく、
むしろ予防に大きな重点をおいて
病院や看護施設への入所を少なくすることで
全体として医療費を削減していこうという試みが、
約20年前、サンフランシスコの中国人社会を中心に
始まりました。

Program of All-inclusive Care for the Elderly
(PACE)というのがその試みの名称で、
全米で9都市、11のPACEプログラムが
稼動し始めています。

On Lok Sinor Health Serviceは
その最古の団体で、こんなことまでやってるのか、
と思うようなサービスを提供しています。

次回はその内容についてお伝えします。
では、今日はこの辺で。
みなさまどうぞお元気で。

本田美和子

1999-10-27-WED

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