PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙25 サンフランシスコから
「老人医療保険の試み」その3


こんにちは。

サンフランシスコの月3000ドル
(今のレートだと32万円くらい)
高齢者健康支援プログラム、
On Lok SeniorHealth Systemについて
前回お伝えしましたが
今日は具体的なそのサービスの内容について。

プログラムに加入すると、健康診断だけではなく
痴呆や鬱症状などの精神的な評価や、栄養状態、
生活動作(洋服の着脱や食事、入浴など)や
社会生活(身の回りのお買い物や、請求書の支払いなど)に
介助が必要な状態かどうかなどが詳しく評価されます。

どんな家に誰と住んでいるか(階段があるか、とか)
食事を作ったり買い物に行ったりしてるのは誰か、
といったことも重要な項目です。

それらの評価は医師、看護婦、
栄養士、リハビリテーション療法士、
ソーシャルワーカー、ホームケアなど
いろんな立場から行なわれています。

この評価に基づいて、
それぞれの加入者に対して必要なサービスが決められます。

加入者の自宅では、着替えや入浴、
身の回りのことを手伝ってくれたり、
簡単な家事をしてくれるホームケアと
往診や訪問看護、いろいろなリハビリテーション、
ソーシャルワークなどの
ホームヘルスのサービスを受けることができます。

また、加入者の自宅から市内6ヵ所にある
シニアヘルスセンターまで、
希望に応じて毎日でも車でお迎えが来ます。
そこでは常駐の医師がいて、
いつでも診察してもらえますし、
音楽家の演奏があったり、
ボランティアが連れてくる動物と過ごしたり、
レクリエーション・セラピスト
(そんな仕事があるなんて初めて知りました)
とゲームをしたり、
もちろん専門家によるリハビリテーションもできます。

ホームケアではなかなかできない、
湯船での入浴もここでは機器を使ってやってますし
できたてのお昼ご飯も食べられます。

わたしが行った最初の日には、
ゲームの前にレクリエーション・セラピストが
火災が起きた時にどうすべきか、ということについて
わかりやすく説明していました。

火事が起こったらとにかく大声で叫んで助けを求めること。
自分で消せそうなら、
水だけではなくて、塩でも小麦粉でも
(これって本当に効き目あるんでしょうか)
投げ込んでみる。
エレベータは煙突みたいな構造なので
火が一気に駆け上るから、絶対に乗ってはいけない。
階段では足が悪くてうまく降りられなければ
腰を床につけて、お尻で滑る要領で降りる。

こういったことを、
スキンヘッド、両耳ピアスで軽いノリのおにいさんが
適当にふざけながら話しています。
2日目には地震の対応について話してましたから、
きっと毎日ひとつずつ
トピックを挙げてるんだろうと思います。

希望者は月に1回サンフランシスコ近郊への
ドライブ旅行に行けますし、
その場所はみんなの希望によって決められています。

また、部屋の一角にはいろいろなゲームが置いてあって
中国系のおばあさんたちが
マージャンで遊んでいました。

このような活動は、前回ご紹介したように
病院や看護施設へ入院することによって生まれる
高額な医療費をなるべく抑えるために、
まず、病気がこれ以上悪くならないようにする、
できるだけ自立した生活が送れるようにするといった
予防医学的立場からのアプローチです。

すべての加入者は、3カ月に1度、朝のミーティングで
現状と問題点について話し合われて
もし、問題があれば改善をめざしています。

と、いうのがおおまかなサービスの内容です。
一人の加入者のために働いているひとの数は
少なくないですし、
契約料を支払いつづける限り
入院も含め、給付されるサービスは
すべてその中から賄われています。

On Lok は独立採算制をとっているので
経済的にも成功しなければなりません。
月3000ドルは止むなし、なのかもしれません。
今のわたしには払えませんが。

読んで下さった方は、どうお考えでしょうか。

健康を維持するのって、お金がかかるんですよね。
でも、その治療にはもっとかかります。

日本では現在の、そして今後導入予定の保険で
それをどこまで支えていけるのか、
破綻したときにそれを負担するのは誰なのか。
考えると、ちょっとブルーになります。

では、今日はこの辺で。
みなさまどうぞお元気で。

本田美和子

1999-11-10-WED

HOME
戻る