PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙33 本田選手へ

あけましておめでとうございます。

今日は、もしかしたら巡りめぐって
伝わるかもしれない、という希望を込めて
先日聞いたことを書くことにします。

わたしの苗字は
日本製品の輸出のおかげで
日本以外の方にも
わりと耳に馴染んでいることが多いので、
覚えてもらうのに、便利です。

「こんにちは。
わたしが入院中のお世話を担当する、本田です。」
と挨拶をすると、
たいてい
「お父さんは、車作ってるの?」とか
「あの自動車の会社とは何か関係があるの?」
といったことを訊かれて、
「いいえ、残念ながら。
もし、そうだったらいいんですけど」
と答えるというようなやりとりが、
判で押したようにこれまで何度もありました。

先日、
所用で航空会社のサービスセンターに電話をかけた時に
オペレーターの女性が
わたしの名前について話しかけてきたときも、
またいつもの車の話になると思っていました。

でも、わたしの名前の綴りを聞いたオペレーターは
「あなた、日本の方?
わたしの一番のお気に入りの、
スケートの選手と同じ苗字ね。
彼とは親戚か何か?」
と訊いてきたのです。

一瞬考えて、
彼女が日本の若手のフィギュアスケートの選手、
本田武史選手について言っているんだと気がつきました。

彼が日本代表として
長野オリンピックに出場した試合を見て以来、
オペレーターの女性は
彼を凄く気に入っているんだそうです。

「彼のジャンプはすごくいいと思う。
まだ若いから、次のオリンピックでも
十分期待できると思うし、
去年こっちの試合に出たときの
パフォーマンスもわたしは気に入ったわ」。

飛行機の予約のためにかけた電話でしたが、
いつのまにか
彼女の本田選手論を聞くことになってしまっていました。

たとえばフランスの女性選手の衣装は
ゴルチエのデザインだったりするように、
みかけがかなり重要視される
フィギュアスケートですが
本田選手の衣装は、お母さんの手作りだ、
という話を聞いて以来、
彼はわたしにも何となく気になる選手でした。

去年の初夏に
母と長野県の戸隠で泊まった旅館のひとから、
長野オリンピックの期間中に
滞在中のあるご夫婦が、
そこから遠く離れた
スケートの会場までずっと通っているので、
熱心なファンなんですね、と話を聞いてみたら
本田選手のご両親だったんですよ、という話を聞いた時も
家族みんなで支えあっている感じでいいなあ、と
ひとり勝手に思っていました。

今年もスケートのシーズンにはいって、
きっと本田選手は
いろんなところで試合に臨んでいらっしゃることでしょう。

特に日本を離れると
心細いこともいろいろあるんじゃないかなあ、と思います。
でも、
わたしに話してくれたオペレーターのように
日本以外にも、
本田選手を評価して応援してくれている
普通(スケート関係者じゃない、ただのファン)の
ひともいることを、がんばってね、の応援の気持ちとともに
彼に伝えることができたら、どんなにいいか、と思います。

本田選手とは面識もないし、
いまどこにいらっしゃるかもわかりませんが、
ここに書いておけば
もしかしたら、巡りめぐって
彼のもとに届くかもしれない、という願いを込めて
今日はユナイテッド航空のオペレーター
ジュディさんからの応援の伝言を書きました。

では、また。
みなさまどうぞお元気で。

本田美和子

2000-01-04-TUE

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