手紙40 喘息のはなし3 治療
こんにちは。
「ほぼ日」に書かせてもらっていることは
ごく親しい数人の友達と妹にしか話していないのですが、
今回の喘息シリーズをやろうと考えて、
ざっと書いたものを
その中の一人に読んでみてもらいました。
「今読んじゃうと、載ったときに読む
楽しみがなくなっちゃうじゃない」
なんて、
うれしいことを言ってくれながら
目を通してくれたのですが、
彼の感想は
「ちょっと難しすぎない? 特に薬のところ」
ふむ。
彼は内科医で、また、物知り。
しかも意見はたいてい頼りになります。
もう少し、書きなおしたほうがいいかな、と
ちょっと考えました。
で、考えた結果、書きなおさずにそのまま手紙を
送ることにしました。
「今すぐ役に立つわけじゃないけれど、
もしかしたら知っておくといいかもしれないこと」
について書いていこう、と
糸井さんと相談した1年前のことを
もう一度考えたからです。
喘息の治療についての話なんて、
その典型じゃないかな、と思えました。
ふだん、薬や体のことに馴染みのない方にも
ざっと、流して読んでもらえたらうれしいです。
とりあえず、
一般的に用いられる喘息治療のグローバル・スタンダード。
前置きが長くなりましたが、今日は喘息の治療について。
ご紹介する薬は6種類です。
日米の商品名もいくつか添えました。
入院するように重症な喘息の治療については
病院で働いている人に任せるとして、
今回は外来治療で用いられる薬について
ざっとお知らせしようと思います。
「喘息のはなし1」で触れたように
喘息は気道の筋肉が縮んだままになることと、
そこに起こる炎症がその原因となります。
まず、縮んだ筋肉を緩める働きのある薬について。
気管支拡張剤とよばれる薬です。
<ベータ2刺激薬>
べネトリン・メプチン・スピロペント・
Ventolin・Metaprel・Serevent などいろいろ。
ベータ2刺激薬、と呼ばれる交感神経を刺激する薬は
気管支をささえる筋肉をリラックスさせて
狭くなった気道を元の大きさに広げようとするものです。
これには効き目が短いものと、
長時間持続的に効き目を保つものがあります。
使う回数が少なくて済むので
長時間持続性のあるものがよく使われます。
スプレータイプで、持続時間が長いものだと
1日2回2パフずつ
(1回の吸入につき、2回スプレーを押す)
というのが基本的な使い方です。
ベータ2刺激薬は交感神経を刺激するので、
起こりうる副作用の症状としては
すごーく怒っているひとの姿を想像してください。
脈や呼吸が速くなり、細かく手が震えたり
冷や汗をかいたり、頭痛がしたりします。
<テオフィリン>
ネオフィリン・テオドール・ユニフィル・
Theophillineなど、
テオフィリンも、古くから使われている
気管支を広げる薬です。
これは気管支の筋肉の酵素に働いて
筋肉内のカルシウムの量を減らすことによって
縮んだ気管を広げているらしい、と考えられています。
この薬は、以前と比べると
だんだん使われなくなってきていて、
有名な内科治療の本(ワシントンマニュアル)では
ついに喘息治療薬の中から外されてしまいました。
でも、有効な気管支拡張作用を
持つ薬であることはたしかです。
この薬で大切なのは、一緒に服用する薬によって
体の中での血中濃度が変わってくることです。
また、血中濃度をときどき測っておく必要があります。
と、いうのも
血中濃度が高くなりすぎた状態を、
薬物中毒、と呼びますが
テオフィリンはこの中毒を起しやすいんです。
テオフィリン中毒の場合の症状には、
吐き気や頭痛、不眠などがあり、
まれに不整脈や痙攣を起こすこともあるので
注意が必要です。
<抗コリン薬>
アトロベント・Atroventなど
抗コリン薬と呼ばれるグループの薬も、
やはり気管支拡張薬のひとつです。
これはとりわけ肺の病気を併発している
お年寄りに有効だと考えられています。
<クロモリン・ナトリウム>
インタール・Intalなど
実際に気管支を広げるわけではありませんが、
その前に、
気管支を縮ませない、という働きをしている薬もあります。
肥満細胞とよばれる
免疫を受け持っている細胞がありますが、
これからぶわーっと放出される免疫物質が
気管支をぎゅっと縮めて、
しかも炎症を起こしてしまうことがわかっています。
この免疫物質を放出させないようにする薬が
クロモリン・ナトリウムと呼ばれる薬です。
運動で誘発される喘息に対して、
運動を始める前に使うことで
それを予防することができます。
<ステロイド>
べコタイド・アルデシン・
Vanceril・Floventなどいろいろ。
ステロイドは、いろんな病気に対して使われる薬ですが
これは、ほんとにすごい抗炎症作用があります。
現在米国での喘息治療でまず最初に使うべき薬、
という位置付けをされています。
気管支収縮に対しては、無効なのですが
その強力な炎症を抑える力で
喘息の症状を和らげます。
基本的にはまず、吸入タイプで始めますが
重症になれば飲み薬や、
注射タイプのステロイドも使います。
ステロイドは
調子が悪いときだけ使うよりも、
普段から使うことで喘息発作の頻度を減らすことができ
より望ましいと考えられています。
もちろん、いろんなところで言われているように
ステロイドにはいろいろな副作用があります。
とくにスプレータイプを使っている場合には
口の中に感染を起こしやすくなるので
吸入の後うがいをすることが必要ですが、
飲み薬や注射に比べると、
全身への影響は小さくなるので比較的副作用は少なく、
より安全といえます。
<リューコトリエン拮抗薬>
オノン・Singulaire,・Accolate・Zifloなど。
長々と書いてきましたが、これが最後の薬です。
最近流行のリューコトリエン拮抗薬。
リューコトリエンというのは、
いくつかの種類があるのですが、
気管支の筋肉を縮めたり、気管粘膜を腫らしたり、
といった喘息症状を悪化させる原因となることを
つぎつぎと起こしていく免疫物質です。
喘息の患者さんは、あるリューコトリエンに対して
普通の人よりも100倍も過敏だという報告もあります。
で、このリューコトリエンを
何とかして邪魔することができないだろうか、と
考えて作られた薬があります。
これがリューコトリエン拮抗薬。
リューコトリエンがくっつこうとする
細胞の入り口に先回りして
レセプターとよばれる入り口をふさいでしまおう、
というのがそのアイディアです。
この薬も、
喘息発作が起こっているときだけ使うのではなくて
ふだんから使っているほうがいいと考えられています。
また、他の薬を一緒に飲むことで
互いの効き目に影響が出ることもあるので
注意が必要です。
副作用としては、おなかの調子が悪くなったり
肝機能障害を起こしたりすることがあります。
以上、ちょっと長くなりすぎましたが
大雑把な喘息治療薬のご紹介でした。
いずれにせよ、
大切なことはよく相談にのってくれる主治医を見つけて、
必要な薬を選んで続けることです。
あと、ピークフローメーターも、よろしく。
では、今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。
本田美和子
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