PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙53 胸が痛いとき3
     虚血性心疾患

    
こんにちは。

胸痛を起こす可能性のある病気の話が
途中までになっていました。
今日はその続き、心臓についてです。

心臓は全身に血液を送り出す
大切なポンプとして働いています。
何層にも重なった筋肉からできていて、
1分間に70回くらい、収縮を繰り返しています。

からだのどの組織も
血液が運んでくる酸素を取り入れて
そのエネルギーとしています。
心臓の筋肉も例外ではありません。

大動脈という心臓に始まるおおもとの太い血管から
直接、細い血管が分かれ出て
心臓の筋肉に酸素を送りつづけています。

冠動脈と呼ばれる
この血管の径が狭くなって
血のめぐりが悪くなると、
心臓の筋肉には
十分な酸素が届けられなくなってしまいます。

狭心症という病気がありますが、
これは心臓への血のめぐりが悪くなって
心臓の筋肉が酸素不足になることで起こります。

さらに完全に血管が詰まってしまって
その先にいる心臓の筋肉に
酸素が届かなくなってしまった状態を
心筋梗塞と呼んでいます。

これは、もう一刻を争う事態です。

酸素が届かなくなった筋肉は
まもなく死んでしまい、収縮することができなくなって
ポンプとしての機能がなくなり、
全身へ血液が送られなくなってしまいます。

つまり、死がすごく近くにやってくる。

心臓への血のめぐりが悪くなる原因としては
1. 血管の内側に、何かが詰まって径が小さくなる。
2. 血管が何かのきっかけで収縮してしまう。
ことなどが挙げられるのですが、
虚血性心疾患とよばれる
心臓への血のめぐりが悪くなる病気は
圧倒的に
「血管の内側に、何かが詰まって径が小さくなる」
ことで起こります。

では、何が詰まって血管を狭めているのか。

それは、脂。

わたしたちが
患者さんに食べ物の油を減らしてね、と頼んだり
コレステロールをしつこく測ったりする理由は
ここにあります。

健康診断や、病院受診時に
血液検査結果を渡されたことがある方は
たくさんいらっしゃると思います。

脂について注目していただきたいのは
(今日のところは)HDLコレステロールと
LDLコレステロールです。

HDL(High Density Lipoprotein)は善玉、
LDL(Low Density Lipoprotein)は悪玉の
コレステロールとして
健康雑誌などでは紹介されています。

血液の中の脂が多くなると
余分な脂が澱のように血管の中にたまっていきます。
LDLコレステロールは、
マクロファージと呼ばれる
何でも食べてしまう細胞に取りこまれて
血管の内皮細胞(血管の一番内側の細胞です)の中へ
入り込んでいきます。

これをきっかけに
その部分の血管はいろいろな変化を起こし始めて
内腔がどんどん狭くなっていきます。
また、内皮細胞も変化してきて
はがれやすくなってきたりもします。

そうしてある日、その場所が完全に塞がってしまったり、
そこからはがれた血や脂の塊が
血流に乗って飛んで行き、どこかで詰まったりして
心筋梗塞を起こしてしまうというわけです。

狭心症は、その前段階。

血管の中にせっせと脂を溜め込むのが
LDLコレステロールなのですが
逆にたまった脂をそこから動かそうと
掃除をするように働くのがHDLコレステロールです。

HDLが「善玉」とよばれる所以はここにあります。

LDL(悪玉)÷HDL(善玉)の値が
3以下(HDLが相対的に高い)だとまあ合格、
5以上(HDLが相対的に低い)だと
虚血性心疾患に罹る危険性が高くなる、と
おおまかに考えられています。

で、肝心の
「どんな症状が起こったときに
 狭心症や心筋梗塞を疑うのか」
ということについては、この次に。

みなさま、どうぞお元気で。
本田美和子

2000-06-25-SUN

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