PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙57 胸が痛いとき7
     最後に……心電図のこと、とか


こんにちは。

胸が痛いときの話、ちょっと長くなりすぎたので
そろそろ終わりにしようと思うのですが
最後に、これまで言いそびれていたことを。

ほぼ日を読んで下さっているのは
20代から30代の方が
たぶん一番多いんじゃないかと思います。
そういう方々向けに
50代以降にピークを迎える
虚血性心疾患の話をするのは
ちょっと場違いかもしれないと最初は思いました。

でも、読んでくださっている方々のご両親やご親戚、
また職場の上司など身の回りにいる人々が
この病気が多くみられる年代にあることを思うと、
却って周囲の理解を得られるいい機会かもしれない、
と考え直して、今回の分も含めると
7回に分けてお伝えすることになりました。

とくに胸が痛くなったとき、その本人は慌ててしまって
とっさに本当に必要な行動が
取れなくなってしまうことはよくあります。

そんなとき
「すぐ一緒に医者に行こう」
「救急車を呼べ」とか
「すぐ座ってニトログリセリンを3回舌下に入れてみて」
「朝まで待っていちゃ、手遅れになる」など
周りにいる人が声をかけることで
冗談ではなく、
その方の命を救うことができる可能性があるのです。

ですから、もし身の回りに
胸痛を訴える人がいたときに
今回のシリーズのことを思い出していただけると
とてもうれしいです。

それから
あと、もうひとつ。

胸が痛いという患者さんで
心臓病を疑った時には、
わたしたちは必ず心電図を取ります。
手足に4つ、胸に6つの電極をつけるのですが、
それから12種類の波が記録されます。

その場でとった心電図は、とても大切な情報です。
一目見て、「わー、たいへんだー!」と
こちらが心臓発作を起こしそうな心電図が
プリントされて出てくることも、もちろんありますが
「んー、ここちょっと怪しいね」という感じの
心電図が出てくることのほうが多いです。

そんなとき重宝するのが
その人の、以前とった心電図です。

波の形を比べることは、
リズムの変化や、虚血の有無を判断するときに
とても役に立ちます。
そのため、
わたしたちは患者さんの主治医に連絡をとって
これまでの心電図をファックスしてもらうことが
よくあります。

でも、なかなか連絡が取れなかったり、
すぐにカルテが出てこなかったりすることもあります。

そんな時にはいつも
患者さんが自分の記録を持って来てくれれば
こんな待ち時間を減らせるのに、と思います。

狭心症や心筋梗塞を起こしたことのある方の場合は
とくに参考になるので、
もし、心電図を取る機会があれば
そのコピーを1部もらっておいて
いざ、というときには
病院に持ってきていただけるといいな、と思います。

あ、それからこれで本当に最後ですが
ニトログリセリンについて。

この薬は小さな錠剤で、小さな瓶に入っていたり
アルミ箔で包装してあったりすると思うのですが
結構変質しやすいので、有効期限をよく確認してください。
半年から1年に1回は
新しいものに取り替えたほうがいいと思います。

また、狭心症の患者さんに
ニトロダームなどの商品名の
貼薬になっているニトログリセリンを
処方することがありますが
この薬は24時間貼りっぱなしだと、
体に耐性ができて効き目が落ちてしまうので
ふつう、寝てる間は
はがしてもらうようにお願いしています。

24時間ずーっと貼り付けっぱなしだったり
(耐性ができるので)、
2枚も3枚も一度に貼ったりすることは
(血圧が下がりすぎることがあるので)、
ぜひ避けてください。

いずれにせよ、
自分の体のことをよくわかってくれている主治医と
体の変化についてよく相談することが
何よりも大切です。
お体、くれぐれも大事になさってください。

では、今日はこの辺で。
次回は大学のときにとった水泳の授業について
思い出しながら書こうかな、と思っています。

みなさま、どうぞお元気で。
本田美和子

2000-07-30-SUN

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