PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙69 ミスを防ぐために8
     薬剤師さんからのメール

    
こんにちは。

「ほぼ日」で初めてわたしが書いたものを
紹介していただいたのは約2年前のことです。

その頃は
1日に更新されるコンテンツも3つか4つで、
面白いことをひっそりとやっているサイト、
というような雰囲気だったのですが、
みなさまもよく御存知のように
あっという間にたくさんの人々の集まる
広場になっていきました。

「あんなにたくさんのコンテンツの中から、
 これを選んで読んでくださる方がいるっていうのが
 ありがたいね。」

「1度読んだら
 続きもまた読もうか、と思ってくれるんだろうけど、
 その最初はどういうきっかけで
 読み始めてくれるのか、不思議。」

先日、妹と「ほぼ日」について話している時に
彼女からそう言われました。

わたしも、そう思います。

しかも、もっとありがたいのは
読んだ方に感想を寄せていただけることです。

編集部の金澤さんから転送されてくるメールは
「ほぼ日」を通じて
知らない方と接点ができているんだな、と実感できて
読むのがとても楽しみです。

たとえば、
あまりの勢いの良さに
最近で一番元気が出たのはこの方からのメールです。

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本田さん!!
がんばってください!!
僕はインターネットを始めたばかりで
まだ本田さんの話を全部読み終わってないんですが、
2.3読んでるうちにこのメールを送りたくなったので
送っちゃいました。
今からまた続きを読もうと思います。

日本の大阪の専門学校生・青山直樹より

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時には、知ってる人との再会もあります。

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連載をずっと読んでいたけれど、
今日初めて最初の頃のバックナンバーを読んで
ふと気がつきました。
本田さんって、もしかしたら
僕が知ってる中学校の同級生の本田さん?

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こんなメールを先日、中学時代に仲良くしていた
友達の嘉悦靖久くんからもらいました。
こういうメールも、もちろんすごーく嬉しいです。

今回、医療ミスについてのシリーズは
いつものように何となく思いついて、
書きながら考える、という形で続いていったのですが、
起きてしまったミスについて、
どのようにこれからの安全に結び付けていくか、
ということをじっくり考えるいい機会になりました。

医療事故が報道される時はたいてい
事故を起こした人の行動と、
その責任の追及に焦点がおかれます。
被害に遭った方の立場を代弁する、という点からは
このアプローチのしかたはたぶん正しいのですが、
今後、同じような過ちを犯さないようにするためには
事故を客観的に分析して、
その事態がなぜ起きてしまったのか、という原因について
過ちを犯す可能性のある人々が
起こりうる可能性について話し合い、
その予防策を立てていく必要があるのだと思います。

そのためには報道のような、
外側からその内部に踏み込んで行く、という形をとるよりは
その事情をよく知る、内部にいる人たちが
問題点を明らかにしながら普遍化して外側へ広げて行く、
という形をとった方がいいような気がします。

今回のシリーズの連載中は
医療に携わる方から、
とくにシリーズの終わり頃には
薬剤師の方からのメールをたくさんいただきました。

いずれも、ご自分の経験を踏まえた
現状に対する危機感にあふれたメールばかりで
とても読み応えがありました。

いつもは「ほぼ日」編集部の方とわたしとで
楽しみながらじっくり読んでいる、感想メールですが、
今日はその一部を抜粋してご紹介してみます。

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今日の「手紙67」を読ませて頂いて、
まず私が思ったのは、
『よく言ってくれました!そのとおり!』
という事でした。

新聞で医療事故の記事を読む度、
私も本田さんと同じ思いを抱き続けてきたからです。
いくら記事を読み返しても、
薬剤師の責任を問う言葉は見つからず
また、いくら考えてみても、
これらは薬剤師の怠慢としか言えないと思っていたのです。

ウッカリ(?)は、人間誰しも有る事ではあります。
けれども、それを防ぐ為のダブルチェックが
薬剤業務には義務付けられています。
複数の薬剤師の目を通り抜けて
間違った薬が渡るという事態を
私は同じ薬剤師の立場から、
どうしても信じられません。

(中略)

今、処方箋枚数に対する薬剤師の数が、
どんどん減らされています。
服薬指導を充実させよ、という厚生省の呼びかけとは裏腹に
厚生省が、調剤する人数を減らしているので、
私達はただ‘薬を渡す’だけで精一杯になりそうです。
こうなると、機械に手助けしてもらうのが
1番の解決法ですが
その時に、薬剤師としての責任感や
使命を忘れずにいたいものです。

溝口
(※溝口さんは個人病院で働く薬剤師さんです。)


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(前略)

私たち、薬剤師は、
せっかくの薬のプロとして教育を受けているのですから、
疑わしきは、つねに医師に問い合わせるのが原則です。

ただ、医師が指示したからと、疑わずに
そのまま薬を出していることが、
医療事故の原因になっていると考えます。

マスコミの記事では、
すべて医師の責任になっていますが、そこは、
私も本田さんと同意見で、もっともっと薬剤師も
医療人として、組織の中でチームプレーを発揮すべきです。

土屋幸太郎 
(※土屋さんは大学病院勤務の後、
 現在薬局を開業なさっています。)


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(前略)

日本では、医師と看護婦が医療の中心です。
薬剤師なんぞは、影も形もありません。
薬剤師とは、日本では最も「顔の見えない」職業なのです。
では何故、顔が見えない、怪し気な商売なのか?
それは、偏に、我々が怠けていたからです。

薬剤師の社会的地位が高いアメリカと違って、
日本の薬剤師は、完全に医師の小間使いであり、
薬剤師免許なんて、嫁入り道具の一つとしか、
見られておりません。
だから、はっきり言って、
馬鹿が多くて、使い物になりません。
此れが日本の現実です。
私一人が、地位向上を叫んでも、どうにもなりません。

アメリカの薬剤師は、努力をして、
その社会的地位を勝ち取ったのだと思いますが、
日本の薬剤師は、故武見太郎氏が仰ったように、
「自ら、その階段を降りて行った」のです。

(中略)

抗癌剤の過量投与の場合、
薬剤師は、医師の処方に口出し出来ないのです。
それに、注射剤は、その殆どが
病棟の看護婦詰所にあります。
薬は、払い出してしまえば、それはもう、
薬剤師の目の届かない所で処理されてしまいます。

後は管理体制の問題です。
本来ならば、病棟薬剤師を配備して、
注射薬のセットを行うべきなのでしょうが、
人件費が掛かるのと、看護婦から仕事を奪う事になります。

もっと重大なのは、看護婦側から、
「あんたら、わたしらが信用出来んのかい!?」と、
突き上げを食らう事です。
此れが、人間関係にひび割れを作り、
ひいては職場崩壊をも招きかねない事態となります。

小林 康治
( ※小林さんは薬剤師として幅広い経験をお持ちで、
 フリーライターとしても活躍中です。)

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いただいたメールを
すべてご紹介することはできませんでしたが、
多くの人が共有している
医療ミスを起こしかねない土壌に対する危機感を、
ミスを防ぐためのシステムの構築まで
なんとか引き上げていけないものかな、と思います。

終わる終わる、といいながら
結局今日も「ミスを防ぐために」について
書くことになってしまってすみませんでした。

でも、これで本当におしまいです。
お付き合いくださって
ありがとうございました。

次回は、秋のはじめに出かけた、
ニューヨーク・マンハッタン島を一周する
サイクリング大会について、お伝えしようと思います。

みなさま、どうぞお元気で。
本田美和子

2000-11-12-SUN

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