手紙76 HIV3 感染経路2
こんにちは。
前回はHIVの感染経路のなかで最も多い
性交渉による感染についてお伝えしましたが、
今日は、その他の感染経路について
「HIVはどうやって人に感染していくのか」
の続きをご紹介していこうと思います。
2 針や刃を介した感染
HIVの感染は、HIVを含んだ血液や体液が
体の中に入ってくることで起こる、というのは
前回お伝えした通りなのですが、
これは、たとえば
HIVに感染している人に使った針や剃刀を
別の人に使うことでも起こり得ます。
現在、医療機関で使われる針や注射器は
使い捨てになっていて、
同じものを別の人に再利用することはありません。
でも、麻薬のような違法な薬を
常用している人々の場合、
針や注射器をそのまま使いまわすことが多いので
麻薬と同時に、HIVも一緒に
からだの中に押しこんでしまいます。
フィラデルフィアに来て間もない頃の外来で、
麻薬をやっている患者さんが
「俺は、HIVと肝炎にはとても気をつけている。
使い捨ての針を無料でくれる補助団体があるから
絶対に針の使い回しはしないんだ。」と
自慢げに言うのを聞いて
何かそれは違うだろう、とびっくりしたことがありました。
麻薬撲滅運動の見地からは
絶対に認めてもらえそうにない、
この麻薬のための注射針の無料配布ですが、
HIVや肝炎その他の感染症に対する
公衆衛生的なアプローチとしては
やらないよりはましなのかもしれません。
針だけではなく
体の表面に細かい傷をつけることになる剃刀も
HIVの感染を介する可能性があります。
注射針を他人と共有する、という場面は
普段の生活ではあまりないかもしれませんが、
剃刀をつい分け合って使ってしまう、ということは
まれにあるかもしれません。
でも、これも一つの立派な感染経路になり得ます。
剃刀も、どうぞご自分専用の物を
お使いになってください。
3 血液製剤
血液から作られた、いわゆる血液製剤に
HIVが混入している場合、
その血液製剤を使った患者さんには
HIV感染の危険があります。
よく知られているように、
日本では、健康政策の実施が不幸にも遅れてしまったために
HIVの混じった血液製剤によって
多くの人々がHIVに感染してしまいました。
血友病、という病気がありますが
これは血の中に含まれる凝固因子、と呼ばれる
血を固める働きをする物質が足りないために
鼻血が出やすくなったり、
ちょっとぶつけただけで、皮下出血をしたり、
関節の中に出血してすごく痛くなったり、
怪我をした時に血がなかなか止まらなかったり、
というような症状を伴います。
このような出血を抑えるために多用された
凝固因子を含んだ血液製剤にHIVが混じっていたために、
多くの血友病の患者さんが
HIVに感染し、AIDSを発症して亡くなっていきました。
一番有名なのは
凝固因子を含んだ血液製剤による感染ですが
その他の血液製剤、
たとえば普通の赤血球の輸血(いわゆる輸血です)でも
1985年頃より前であれば
HIVをきちんと検出できなかったために
HIVを含んだものが使われてしまった可能性は
否定できません。
現在、製法が改められたり
HIVやその他の感染症の病原についての
検査方法の精度が高められたりしたことで、
血液製剤を介したHIVの感染の割合は
非常に低くなってきました。
でも、100%安全という保証はありません。
1990年代の統計では、アメリカを含む先進国で
輸血によるHIV感染の可能性は10万分の1、
B型肝炎の感染の可能性は20万分の1、
C型肝炎の可能性は3300分の1、といわれています。
ですから、血液製剤の利用については
とても慎重にならなければいけませんし、
日本の病院で働いていた時もそうでしたが、
患者さんに輸血をしたいときには
その必要性と、危険性について説明をして
同意書に署名をいただいています。
さて、HIVの感染経路について
いくつか御紹介してきましたが、
現在、世界規模で
とても深刻になっている問題があります。
それは、お母さんから子供への感染です。
今日はちょっと長くなりましたのでこの辺にして、
次回はこの母子感染について御紹介してみようと思います。
では、みなさまどうぞお元気で。
本田美和子
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