手紙81 HIV8 治療薬の理屈
こんにちは。
前回は
HIVに感染していることがわかった時から始まる
治療の第一歩、
「HIVと戦っていく」というご本人の決意と
そのためのパートナー、
HIV治療の専門医を選ぶ、ということについて
お伝えしました。
今日は、その次のステップ、
HIV治療薬についてお知らせしたいと思います。
ややこしいウイルス学についての話は
本当は「ほぼ日」では必要ないんですが、
ほんのちょっとだけ。
普通、生物の遺伝情報はDNAに含まれていて
その情報はDNAからRNAと呼ばれる核酸に移されて
(これを「転写」と呼んでいます)運ばれていくのですが、
HIVが属するレトロウイルスというグループは
DNAを持たず、その遺伝情報はDNAではなくて
RNAに含まれています。
HIVは人のリンパ球の中に入ると
その情報をRNAからDNAへ移して、
そのリンパ球の中でHIVをどんどん増やしていきます。
レトロウイルスのグループの特徴、
このRNAからDNAへの情報の移動を
生物学的には「逆転写」と呼んでいて、
この逆転写を起こすための酵素を
そのまんまの名前ですが、「逆転写酵素」と呼んでいます。
この逆転写酵素がないと、
HIVはリンパ球の中に入っても
それから先には進むことができません。
また、HIVがリンパ球の中で増えていく過程の最後では
おおざっぱにできあがったHIVを
ちょんちょん刈り込んで完成品にするのですが、
その刈り込むはさみ「プロテアーゼ」という酵素がないと
HIVは不完全なままで、増えていくことができません。
と、いうわけで
HIVが体のなかで増えていくための鍵となる
「逆転写酵素」と「プロテアーゼ」の働きを
止めてしまおう、というのが
現在のHIV治療薬の基本的な考え方です。
逆転写酵素の働きを止める薬、逆転写酵素阻害剤には
その働き方の違いから
ヌクレオシド系と非ヌクレオシド系とよばれる
2種類のサブグループに分けられています。
それと、もう一種類、
英語ではプロテエースと発音する
protease・プロテアーゼの働きを止める薬
プロテアーゼ阻害剤とあわせて、
現在のHIV治療薬は大きく3つのグループに
分けることができます。
ヌクレオシド系の逆転写酵素阻害剤
(Nucleoside Reverse Transcriptase Inhibitor; NRTI)
非ヌクレオシド系の逆転写酵素阻害剤
(Non-Nucleoside Reverse Transcriptase Inhibitor; NNRTI)
プロテアーゼ阻害剤
(Protease Inhibitor)
HIV治療はこの3種類の薬を
うまく組み合わせることによって、
体内のHIVの量を少しでも減らしていこう、
というわけです。
現時点で日本で「正式に」認可されている薬だけでなく、
既に米国でその有効性と安全性が確認されて
米国市場で販売されている薬についても
一部、「研究班」と呼ばれる
厚生労働省が組織する専門医の集まりを通じて
患者さんに処方することも可能です。
ですから、ここでは日本で認可されているものだけでなく
米国で市販されている薬についても、
あわせてご説明していこうと思います。
実は、もうこんなことは
医療を仕事にしていない方々に向けての
お話の範疇を超えている、とは思うのですが、
実際にHIV陽性の方にとっては
治療法の選択のうえで、避けて通ることのできない
大切な問題なので、つい、書いてしまいました。
ややこしい話になってしまって、すみませんでした。
それぞれの薬の内容と、
絶対に守っていただきたい治療の鉄則については
次回、お伝えします。
では、みなさまどうぞお元気で。
本田美和子
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