PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙91 ポケモンカメラ

こんにちは。

わたしは自分の写真を見ると
がっかりすることが多いので
なるべく撮らないようにしています。

自分のカメラも持っていません。

昨年の春、日本へ帰った時、
シカゴ空港の航空会社のカウンターで
「キャンペーン中なので、どうぞ」と
使い捨てのカメラをもらいました。

こちらでもとても人気のあるポケモンが
航空会社のキャンペーンのキャラクターとして
一面に印刷してあるカメラで、
お、かわいい、ともらったのですが
写真を撮る機会がないので
袋の封も切ることなく、
そのまま家に置いてありました。

昨年の暮れに遊びに来てくれた妹も
カメラは持ってきていませんでした。

ニューヨークに出かける日、
当直から戻ってあわてて支度をしながら
玄関先に置いてあったそのカメラを
折角だから使おう、とかばんの中に放りこんで
わたしたちは出発しました。

暮れのニューヨークは
非常事態宣言が出るほどの大雪でした。
普通なら家の中でゆっくり過ごすべきお天気でしたが
旅行者はそう言ってもいられません。

雪で埋まった街角のあちこちには
いろいろな雪だるまがたくさん作られていました。
妹は、「今回のテーマは雪だるま」と決めて
熱心に写真を撮っていました。

とても楽しそうなので
わたしも少し撮らせてもらいました。

フィラデルフィアに戻ると、
また仕事です。
当直の夜、アパートにいる妹に電話をかけたところ
「ものすごい知らせがある。
きっと驚くと思うけど、今、電話では言えない」と
思わせぶりなことを言います。

何なんだ、と翌日の夕方家に帰ると
テーブルの上に現像した写真がありました。

あろうことか、すべての写真は
全体の3分の2くらいがポケモンたちで覆われている
プリクラ仕様のできあがりでした。

本当に撮りたかった
雪だるまや妹の姿は、ポケモンに覆い尽くされて
中央に、わずかに残っているだけです。

そういえば、ファインダーを覗いた時、
周囲が少しにじんだように見えていたのですが、
それはたぶん異常な寒さのせいで
中のプラスチックが曇っているからなのだろうと、
特に気にも留めていませんでした。
そのときに、変だ、と気づくべきでした。

きっとカメラのパッケージには
プリクラのようにできあがる、と
書いてあったのに違いないのですが
そんな注意書きを読むことなど思いもよらなかった
おっちょこちょいのわたしたちには
別の意味で思い出深い写真ができあがりました。

このところ、HIVについてばかり書いていたので
気分転換にちょっと別のことにしようと
寄り道しています。
あと、もう一回だけ
写真のことについてお伝えしてから
いつもの話に戻る予定です。

では、今日はこの辺で。
みなさまどうぞお元気で。

本田美和子

2001-04-14-SAT

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