手紙102 病院評価・3 また、不運。
こんにちは。
病院評価の第三者機関・JCAHOが
やってきた時のお話の続きです。
査察が始まりました。
一目でそれとわかる、スーツの集団が
外来、入院棟、検査部門など
病院のあちこちで見られるようになりました。
査察のグループの中には
病院の担当者も含まれていて、
各部門から一人ずつ呼び出されているようでした。
その中には、内科のレジデントの友達もいました。
「超ついてない。どうして僕がこんなところに
呼ばれなきゃいけないんだ」
と彼はぼやいていましたが、
そのおかげで、一体どのように調査が進んで行ったのかを
詳しく聞き出すことができたので、
彼には気の毒でしたが、わたしにとってはラッキーでした。
JCAHOがやってきた今年の1月は
わたしは病棟で入院患者さんを担当していて、
4日に一度の当直をしていました。
ある当直の夜、
最後の患者さんの診察が終わったのは
深夜2時頃でした。
その日は8人の入院があって、
一緒に働いている1年目のレジデントもわたしも
すっかりくたびれてしまっていました。
患者さんの診察をしたら、
その記録と治療方針について
カルテを残さなければなりません。
眠いよー、と思いながら
よろよろと書き上げて、サインをして
当直室へ引き上げました。
翌朝、というかそれから数時間後、
朝の回診を始めました。
一番最後に入院した患者さんの番になって
ナースステーションへ向かったところ、
人垣ができていて、中に入れません。
「あー、JCAHOが来てるんだね」
などとのんびり話しながら、
カルテを取りに行った1年目のレジデントが
「やばい。俺達の患者さんのカルテをチェックしてるよ」と
手ぶらで帰ってきました。
何という不運。
その後、査察のグループに加わっていた友達に
詳しいいきさつを聞きました。
その日は患者さんの記録についての調査が
行なわれたそうで、
前日に入院した患者さんのカルテがランダムに選ばれて、
その内容が適切かどうか、
じっくり検討されたのだそうです。
内科では毎晩4つのチームが当直しています。
日によって多少の増減はありますが、
一日に大体50人くらいの入院があります。
内科以外の科の入院もたくさんありますから、
大体1日に入院する患者さんは
少なくとも120人ぐらいになるんじゃないか、と
思います。
その中でいくつのカルテを調べたのか
よくわかりませんが、
内科の入院の中で取り上げられたのは
わたしたちの患者さんだけだったそうです。
不幸中の幸いだったのは、
選ばれたのがわたしではなく、
わたしが書いたカルテだったことです。
個人的に質問されていたならば、
いつものように、とんちんかんな答えをして
一挙に印象が悪くなっただろうと思いますが、
彼らが調査したのは、わたしではなく
わたしが書いたカルテでした。
口頭でのプレゼンテーションは
だいぶ慣れてきたとはいえ、
いつミス・コミュニケーションが
起こるとも知れませんので、
わたしはカルテ書きには、いまだに慎重です。
もうちょっと簡潔に書けるようにしたいなあ、と
いつも思いながら
くどくど書いているカルテが
今回だけは吉とでました。
審査の人たちは
そのカルテをとても気に入ってくれたそうで、
今回の災難からも、
無事逃げ延びることができました。
その後、偉い先生から
「いいカルテ書いてたんだってね」と
誉めていただきました。
「わたしは話が下手なので、
その欠点を補うための姑息な作戦なんです」
と
打ち明けようかと思ったのですが、
話がややこしくなりそうだったので、
にっこり笑って
「ありがとうございます」
とだけ言いました。
さて、病院のいろいろな部門を査察を済ませた
JCAHOの人たちは、
それぞれの項目についての評価を定めて
病院の管理部門の人たちとの会議を開いたそうです。
1月の終わりに、
管理部門から全職員にメールが届きました。
ちょっと長くなってしまいましたので、
そのメールについては、次回お伝えしようと思います。
では、今日はこの辺で。
みなさま、どうぞお元気で。
本田美和子
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