PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
フィラデルフィアの病院からの手紙。

手紙108 レジデントの暮らし・5 MAR1

こんにちは。

わたしがいた病院の内科のレジデントは
いつも21の小さなグループに
分かれて仕事をしているのですが、
その中から一晩に8チーム、14人が当直をしています。

昼夜を問わず、
病院には次々に入院患者さんがやってきます。
チームの間には細かい決まりがあって、
患者さんの病気や、かかりつけの医師によって
担当するチームが決まります。

多いときでは一日に60人近い入院患者を
それぞれのチームに割り振る
交通整理係のことを
Medical Admitting Resident(内科の入院係レジデント)、
略してMARと呼んでいました。

救急外来・ERの人たちが、
「この患者さんは内科の入院が必要だ」と考えると
MARを呼んで、状態を報告します。

報告を受けると、
MARは自分で患者さんをざっと診察して
重症度を判断し、
内科のスタッフの医師と相談して
入院の必要性を検討します。

実際に入院することが決まれば、
今度は当直のチームを選んで、レジデントに連絡します。

入院患者さんは必ずしもERを経由してくる訳ではなく、
すでに入院することが決まっていていて
外来や自宅から直接来る人もいますし、
他の病院から搬送されてくる患者さんもいます。

このようにして入院してくる患者さんのすべてが
MARを通してチームに割り振られるので、
一言でいえば、
MARは地獄です。

ERの一角で、
患者さんのこれまでの記録をコンピュータで検索しながら
スタッフの医師と電話で相談している隣りには、
「早く俺の話を聞け」と
ERのレジデントがカルテを手に立っていて、
その間にも
「MAR、72番に消化器内科から電話です」
「MAR、76番に内科のレジデントから電話です」と
次々にER内の院内放送で呼ばれ、
腰のポケットベルはじゃんじゃん鳴りつづけます。

レジデントの一年目に
初めてMARをERで見たとき、
3年目にはこの仕事をわたしがやらなければいけない、とは
とても信じられませんでした。

だんだん仕事にも慣れてきて、
レジデントは楽しいね、と思えるようになった
2年目の終わりのある日、
3年目のスケジュールが渡されました。

そのスケジュールを見て、
わたしは深くため息をつきました。

わたしの3年目はMARから始まることになっていました。

病院の暦は7月から始まります。
7月は、新しいレジデントやスタッフが仕事を始めるので
病院の中は大混乱です。
新しいレジデントは建物の名前もよく知りませんし、
病院の中で迷子になることさえあります。

しかも、そんな新しい1年目のレジデントを指導する
2年目のレジデントも、
自分の新しい役割にまだよく馴染んでいないので
なかなかスムーズに仕事が進みません。

2週間もすれば、
みんな見違えるように素晴らしい働き手になるのですが、
最初の数日は、本当に大変です。

そんな大混乱のなかで
患者さんの交通整理をする、というだけでも
十分疲れるのに、
さらに、この最初のブロックは
他のブロックよりも一週間長く、
5週間もやらなければいけませんでした。

そのブロックにMARをすることになった
わたしを含めた4人のレジデントは、
「運が悪かったねえ」と慰めあいながら
7月を迎えました。

今日は
このMARでわたしがひどい目にあったときのことを
書こうと思って始めたのですが、
状況説明だけで、こんなに長くなってしまいました。

その時の話は、次回にさせてください。

では、みなさまどうぞお元気で。

本田美和子

2001-08-03-FRI

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