手紙119 ニューヨーク家探し・4 2軒目のサブレット
こんにちは。
病院宿舎の空きが出るのを待つあいだ、
仕事場の近くのアパートの1室を
サブレットする生活が始まりました。
同居することになったのは
もともとの部屋の借主とわたし、
それから、わたしと同じように
Village Voiceのサイトを見て連絡をしてきた、
カリフォルニアから長期の出張でやって来た女の人でした。
彼女はカリフォルニア大学のバークリー校で
ウイルスの研究をしている人で、
夏のはじめにニューヨークのあたりで流行っていた
ウエストナイル、というウイルスの調査のために
ニューヨーク市から依頼されて、
夏の間の2か月をニューヨークで過ごすことになった、と
話してくれました。
ニューヨーク市がわざわざ呼んで来てもらっているのに、
どうしてその間の滞在先を
本人が探さないといけないのか、と
不思議だったのですが、
「ニューヨーク市もなかなか予算がなくて
そこまでは手が回らないらしいのよ」と
彼女は、どこも同じよ、といった感じで
もう諦めているようでした。
地面に落ちて死んでいる
カラスの死骸を調べることから始まる、という
彼女の仕事の話は、とてもおもしろかったです。
年齢も、仕事の分野も
なんとなく似ている3人で過ごした7月は
とてもたのしい時間になりました。
その間も、わたしだけでなく
職場の秘書さんからも、病院の宿舎係へ
「いつになったら、部屋が空くのか?」と
しつこく催促していたのですが、
「全然わかりません」という
きっぱりとした返事ばかりで、らちがあきません。
今のサブレットの期限のうちに
宿舎に入るのは無理そうな気がしてきて、
ある日、一緒に夕食を作りながら
「この部屋の期限が切れた後に
またサブレットを探さないといけなくなりそうなんだけど、
このアパートの中に、掲示板みたいなところはある?」と
聞いてみました。
すると、彼女は
「このアパートの2階の洗濯場に掲示板があるし、
チラシを作ってくれば、
学校の掲示板にも貼ってあげられるわよ」と
言ってくれました。
このアパートでは
洗濯機と乾燥機は各部屋には置いてなくて、
建物の2階にひとまとめにしてありました。
夕食を食べた後、洗濯物を持って2階へ降りました。
掲示板には、
「家具を売ります」「ベビーシッターします」
「子供がおもちゃをなくしました」など
いろいろな張り紙がありました。
そのなかに、
「この建物のアパート、
8月いっぱいサブレットで貸します」という
チラシが貼ってありました。
貼り出してすぐのようで、
チラシからちぎれるようになっている連絡先の電話番号も、
まだ誰もちぎっていませんでした。
おお、いそがなきゃ。
洗濯物をあわてて洗濯機に放りこむと、
連絡先をチラシからちぎって部屋へ戻りました。
電話の相手は、男の人でした。
夏休みで8月から9月の始めまで
サンフランシスコに帰る間、部屋を貸したい、
という彼の希望は、わたしにとってもうってつけでした。
じゃあ、部屋を見に来る?と言われて、
そのままエレベーターに乗りました。
33階のその部屋は
広いリビングルームに寝室がひとつ。
引っ越してきたばかりで、まだ家具もあまりないので
本当に広々としています。
大きな窓からは、マンハッタン島のとなり、
クイーンズにあるラガーディア空港に
飛行機がひっきりなしに着陸するところまで見えました。
すごい。
今借りている部屋に決まった時、
「一生のうち、こんな部屋に住めることは
二度とないだろう」
と、思ったのですが、
それから数日のうちに
二度と起きないはずのことが、もう一度起きました。
しかも、今度はこの部屋を独り占めです。
「本当は条件なんかを細かく決めて
紙に書いておいたほうがいいんだろうけど、
まあ、あなたを信じるよ。
9月の3日に帰ってくるから、
それまで自由に使ってください」
若い中国人の生化学の研究者は
そう言うと、部屋代の小切手と引き換えに
鍵をくれました。
というわけで、8月の住処もなんとか確保できて
あとは、9月になる前に
病院宿舎の空きがでるのを祈る毎日になりました。
では、今日はこの辺で。
みなさまどうぞお元気で。
本田美和子
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