手紙121 ニューヨーク家探し・6 ようやく、入居。
こんにちは。
宿舎の申し込みは
大学宿舎事務所と病院宿舎事務所の
2ヵ所に出さなければいけなくて、
しかも自分の申込書は大学宿舎事務所にしか
届いていなかった、ということが
8月も終わりになってわかったわたしは、
本当にがっかりしました。
「わたしは、送られてきた申込書は
一括して返送しましたが、
その際、2ヵ所に送れ、とは言われませんでした。
大学から送られてきた書類は、
すべて書きこんで返送済みです。」
こうなったら、もう
「自分はそちらから言われたことは、みんなやりました。
あなたのところに書類が送られてきていないのは
きっと何かの間違いではないでしょうか」という感じで
話を進めていくしかありません。
『きっと何かの間違い』というのは、
もしかすると
『たぶんわたしの間違い』という可能性もあるのですが
この際、その可能性には目をつぶって
「何とかしてください」とお願いするのが
一番手っ取り早い、ということを
わたしもようやく学んでいました。
宿舎係の人は、みかけよりもずっと親切でした。
「ときどき、そういうことあるのよね。
あっちの事務所から申込書を
ファックスしてもらえば大丈夫。
去年の冬、あなたの友達と同じ時期に
申し込んだんでしょ?
じゃあ、順番は彼女の次にしてあげる。
次に部屋の空きがあれば、それはあなたのものよ。」
ものごとがうまく行かないことに慣れてしまっていると、
こんな風にあっけなく思い通りに話が進むと
かえって、びっくりしてしまいます。
それから1週間後、
病院宿舎の係の人から電話がありました。
先日、わたしをリストの一番上に
割り込ませてくれた人です。
「1部屋空きができたけど、興味ある?」
あるに、決まっています。
電話をもらった30分後には小切手をもって
事務所へ向かい、
最後の書類を受け取りました。
入居の日は9月3日。
ようやく落ち着いた生活が始められます。
ほっとするのもつかの間、
次は、フィラデルフィアに残してきている
荷物の運搬です。
フィラデルフィアのアパートを引き払った時には
まだ、落ち着き先が決まっていなかったので、
友達の好意に甘えて、彼女の庭の物置に
荷物をみんな押し込んで来ていました。
入居した週は、預かってくれている友達の都合が悪く、
翌週以降の週末にトラックで運ぼう、
という計画を立てました。
そして、9月11日。
思いもかけなかった、飛行機を使ったテロが起こり、
ニューヨークの街は厳戒態勢に入りました。
次の標的は、
マンハッタンを孤立させるために
マンハッタンとニュージャージー州を結ぶ
トンネルではないか、という風評もたち、
とくに荷物を積んでいるトラックについては
厳しい検問が行なわれるようになりました。
こうなると、引越し屋さんも
二の足を踏んで
なかなか引き受けてくれません。
友達が貸してくれたマットレスに寝袋、
自分で持ってきていた毛布と、炊飯器にパソコン、
それに8月に勢いで買ってしまった自転車、だけの
生活が始まりました。
これまでの優雅なサブレット生活とはだいぶ違って、
なんだかキャンプみたいです。
「それは、ある意味テロの被害者だ」と
同情してくれる人もいました。
また、7月にニューヨークに来たときに
自分でこちらに持ってきた服は
当然夏物ばかりだったのですが、
だんだん涼しい風が吹き始めると
長袖のシャツや上着が欲しくなりました。
10月のはじめに数日とても寒い日があり、
どうしても、もう、だめだ、と
宅急便で冬物の服だけは送ることができました。
あとの荷物の移動は、
互いの都合のつく11月以降になりそうです。
と、いうわけで
こんなに長く続けるつもりはなかった引越しの話ですが、
最終回の今日も、
まだ、実は引越しを終えることはできていません。
でも、何にもない部屋、というのも
結構広々として、そんなに悪くないです。
強がってるみたいですが、本当です。
引越しについて書いている間には
思いがけず、
「知り合いに聞いてあげましょうか」とか
「何か手伝いましょうか」と
親切に声をかけてくださった方々がいらっしゃいました。
本当に、ありがとうございました。
とてもうれしかったです。
改めてお礼を申し上げたいと思います。
次回は
もうすぐ発行される、「ほぼ日ブックス」について
少しお伝えしようかな、と思っています。
では、
みなさま、どうぞお元気で。
本田美和子
追伸
だいぶ昔に書いたもののことなのですが、
『手紙41 喘息のはなし4 予防』の回で
薬のグループ分けが間違ってますよ、というご指摘を
先日、日本の病院にお勤めの薬剤師、
出口弘直さんからメールをいただきました。
たしかに違ってました。
すみません。
直しておきました。
「以前その薬を服用して
喘息を起こしてしまったことがあれば、
二度とその薬は飲まない」という原則については
当時お話ししたときと同じように、変わりありません。
しつこいですが、
どんな薬でも、それを飲んで
一度でも喘息発作を起こしたことがあれば、
もう、一生その薬はのまないよう、お願いします。
出口さん、ありがとうございました。
本田美和子
|