手紙127 インフルエンザ・1 予防接種の意味
こんにちは。
前回のおわりに、「次は家庭内の暴力について」
なんて書いてしまったのですが、
その前に、ずっとタイミングを逃していた
季節ものの話をしようかな、と思い直しました。
今日は予定を変更して
インフルエンザの話にさせてください。
去年の冬の初め、病棟で働いていたところ
看護婦さんがワゴンを押してやってきました。
「職員向けのインフルエンザの予防接種です。
希望者はどうぞ並んでください」
その場にいた者だけでなく、
話を聞きつけたレジデントも集まってきて
結構長い列ができました。
面白かったのは、予防接種を終えた友達に向かって
「ねえ、痛くなかった?」と
みんな聞きまくっていたことです。
子供みたいに。
みんな医者なのに。
インフルエンザの予防接種、というのは
歴史的には、主に
抵抗力の弱い小児や高齢者などが対象となっていましたが、
近年はもっと幅広い年齢層に対しても
呼びかけられるようになってきています。
みんなが元気で過ごせるように、というような
こころ優しい健康政策が実施されている、と
考えたいところですが、
実のところは、社会の労働力である人々が
インフルエンザに罹ると
仕事の能率が落ちたり、休んだりするので、
それによって社会が被る
経済的損失をできるだけ少なくしよう、
という方向からのアプローチみたいです。
そういう事情を知ると、
「あなた方のお金儲けのために、
なんでわたしが予防接種をうけなきゃいけないの?」
というような気分にもなってしまいますが、
だからといって、
率先してインフルエンザに罹るというのも
割に合わない話です。
インフルエンザに罹らない、ということは
ひいては社会の経済活動のため、なのかもしれませんが
自分が元気に過ごせることは、
自分にとって、うれしいことに違いはありません。
というわけで、
今日はインフルエンザの予防接種について
少しだけお話しすることにします。
インフルエンザは
インフルエンザウィルスが
体の中に入ってくることによって起こります。
インフルエンザウィルスは
A型、B型、C型という大まかに分類ができて、
流行するのは主にA型とB型です。
さらに、ウィルスの表面についている抗原の種類で
サブタイプに分けられます。
この表面にある抗原が細かく変化して
さまざまな種類の
新しいインフルエンザウィルスが生まれてきます。
インフルエンザのワクチンは、
その年に流行りそうな型のウィルス向けに作られていて
基本形はA型ウィルス2つ、
B型ウィルス1つ向けのワクチンを含んでいます。
たとえば、
米国で使われている今シーズン向けのワクチンは
Moscow型・New Caledonia型・Sichuan型の
混合なんだそうです。
「その年に流行りそうな」という予測は
もちろん外れることもあるわけで、
インフルエンザの予防接種をしたのに
やっぱり罹ってしまった、ということはよくあります。
でも、予防接種をしていたほうが
もし、罹ったとしても、程度が軽く、
早く治り、死亡率も低いという報告が出ていて、
ここでも
「長期の入院治療や投薬を防ぐことができるので
医療経済上、とても望ましい」というような
結論が導き出されています。
自分の健康と社会の経済活動、というのは
すごくつながっているんだなあ、と
ふだんはあまり意識していないのですが、
こんな時には実感させられます。
ちょっと長くなったので
具体的な予防接種については
次回にお伝えしようと思います。
では、みなさまどうぞお元気で。
本田美和子
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