PHILADELPHIA
遙か彼方で働くひとよ。
ニューヨークの病院からの手紙。

手紙145 SMAP・3 デビ・トーマス

こんにちは。

昔から
冬のスポーツではフィギュアスケートが好きで、
テレビで放送される競技会をよく見ていました。

フィギュアスケートの競技会は
採点対象になるプログラムの演技が終わった後、
だいたいその翌日に
各部門の上位に入賞した選手が
採点とは関係なく、
得意の演目を観客に披露してくれるという習慣があります。

選びぬかれた上手な人たちが
競技のプレッシャーもなく、
気楽な感じで(というわけでもないんでしょうが)
その魅力を十分に見せてくれる、
このエキシビションという催しは
見ているほうも、とても楽しみです。

80年代の後半に
フィギュア・スケートで活躍した選手のひとりに、
デビ・トーマスという女性がいました。

彼女は、アフリカ系アメリカ人として、というより
世界中の黒人選手のなかで初めて
冬のオリンピックでメダルを獲得した選手です。

「優美な」とか「繊細な」というような
形容詞がふさわしかった
当時のフィギュア・スケートに
筋肉の存在をすごく意識させるような
躍動感あふれた演技を持ちこんだデビ・トーマス選手が
わたしはとても好きでした。

そんな彼女が、
ある大会のエキシビションに出演した際に
見せてくれた演目は、ものすごく印象深いものでした。

彼女は
「スケートを始めて間もない女の子の
(おそらく)初めての発表会」
ということをテーマに演技を始めました。

ぎこちないステップ、
力の入りすぎた、しかも高さのないジャンプ、
もう止まっちゃうんじゃないかと思えるくらい
ゆーっくりのスピン

本当に、リアルな初心者のスケートです。
観客もくすくす笑っています。

でも、そのへたっぴいな、少し滑稽な演技の中には、
一生懸命にがんばる姿を応援する
彼女のとても暖かい思いやりが満ちているようでした。

あの、めちゃめちゃ下手な感じは
彼女のものすごい技術をもって初めて成り立つ
「演技」として作り上げられたものでしたし、
他の選手が
自分のとっておきのプログラムを披露する中で
このような演目をやるのは、
彼女が本当に、自分に自信と余裕を
持っているからなのだろうと思いました。

何でまた、
こんな昔のスケートの選手の話になったか、といえば
SMAPxSMAPを見ながら、
デビ・トーマスのことを思い出したことがあったからです。

2年くらい、もしかしたらもっと前かもしれませんが
SMAPxSMAPの中で、
彼らが、「SMAPをめざすアイドルグループ」に扮して
ゲームをする、というコーナーがありました。

たぶん、彼らのデビュー当時のことを
パロディにしているのだろうと思います。

そのコーナーのはじめに
「SMAPみたいになりたい男の子たち」として
彼らが踊るのですが、
その、いかにも、アイドル、という感じの
ダンスがすごく印象的です。

歌は調子外れで、しかも、
流れるその歌と口の動きはぜんぜん合っていなくて、
満面の笑みを浮かべて元気いっぱい、という感じで
観客に向かってアピールする、その様子は
もう、怪しいアイドルになりきっています。

そんな彼らの姿を見ながら
デビ・トーマスのエキシビションのことを思いだしました。

「かっこよくあり続けているSMAP」という前提を
彼ら自身、その周囲、
そして、それを観ている側の人たちが共有して初めて、
駆け出しのアイドルグループを笑い飛ばす
このジョークは成り立つものなのだろうと思いますし、
「その存在の格好よさ」が
自らの魅力の重要な一面であることを
十分に認識して演じているからこそ、
自信と余裕に裏打ちされた面白さが
観ている側にも伝わってくるのだろうと思いました。

この人たちの仕事は
「格好いい」ってことなんだなあ、と考えながら、
昔わからなかった、橋本治さんの
「エリザベス・テーラーの職業は美人」という言葉を
「SMAPの職業はハンサム」と置き換えてみて、
ようやく、その意味がわかってきたような気がしました。

前回も書きましたが、
もしかしたらすごい見当外れなことを
思いついただけなのかもしれないのですけれど。

さて、気分転換も済んだところで
次回からは
往診のお話を始めることにしたいと思います。

みなさま、どうぞお元気で。

本田美和子

2002-05-14-TUE

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