手紙150
訪問診療・5 ニューヨーク(2) Meals on Wheels
こんにちは。
ニューヨークのお年寄りの話の続きです。
自分で階段を降りて
外にでることができないくらいに
足が弱っているお年寄りにとって、
食料品を買いに外出したり
また、お部屋で食事を作ったりすることは
至難のわざです。
家族や知り合いが近くに住んでいて
折に触れて手伝ってもらえる方もいらっしゃいますが、
すべてのお年寄りが
そのような環境にあるわけではありません。
このように助けの必要な方々への試みとして
Meals on Wheelsという食事の宅配プログラムがあり
わたしたちが往診に行く患者さんの中にも
このサービスを受けている方がたくさんいらっしゃいます。
今日は、韻を踏んでいて
英語ではおさまりのいい名前に聞こえるらしい
Meals on Wheelsについて
お伝えすることにしたいと思います。
1981年に始まったこのプログラムは
政府の基金に加えて
民間からの寄付金を募ってその活動資金にあてており
現在、1万6000人を超えるニューヨーク市のお年寄りが
このサービスを受けています。
このサービスの申し込みにはいくつかの条件があります。
1)60歳以上であること
2)身体的・精神的に慢性の病気があって
助けがなければ外出することができないこと
3)栄養のある食べ物を
自分で用意することができないこと
(これは自宅に台所がない、
食料の買い物に行けない、
料理をすることができない、というようなことです)
4)身近に、助けてくれる親戚や友達がいないこと
このような条件を満たしているお年寄りには
1日に1回、
電子レンジで温めることのできる容器に入れた食事が
その地域の宅配サービスセンターから届けられます。
ニューヨーク市全体で
約200ほどのサービスセンターが、
Meals on Wheelsに参加しているのだそうです。
医療や福祉の分野での
もっとも深刻な問題のひとつは、医療費の高騰です。
このMeals on Wheelsのプログラムでも、
お年寄りの栄養状態を改善することが
国全体の医療費削減に、いかに有効か、ということを
そのサイトの中で紹介していました。
たとえば、
『入院1日にかかる費用と、
食事の宅配1年分の費用は、ほぼ同額である』
(配達されるお食事は、栄養価は十分なのでしょうが、
見た目にはすごーく質素です。)
『栄養状態の改善によって、
慢性の病気をもつお年寄りのおよそ85%は
いくばくかの改善が見込まれている』
『栄養状態の悪いお年寄りが入院した場合、
入院期間は
栄養状態のいいお年寄りに比べて約2倍となり、
その治療にかかる費用は、
栄養状態のいいお年寄りの4倍である』
このような統計をもとに
政府からの補助金を引き出し、
また、一般の方にも寄付を呼びかけているのだと思います。
米国では、このような寄付に関しては
税金の控除の対象となるので
比較的集めやすいのかもしれません。
また、寄付だけでなく、
食事を配達するボランティアとして参加することも
もちろんできます。
配達されるのはとても質素な食事ですが、
この宅配を、
そして配達に来てくれる人とちょっと会話を交わすことを、
とても楽しみにしているお年寄りに
往診先で会うたびに
いいプログラムだな、としみじみ思います。
このプログラムについてもっと詳しくお知りになりたい方は
どうぞこのサイトをごらんになってみてください。
http://www.citymeals.org
では、今日はこの辺で。
次回はいざ、というときに助けを呼ぶための手段について
少しご紹介しようかな、と思っています。
みなさま、どうぞお元気で。
本田美和子
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